第182話 夕食は豪華に

 アズが思わずジロジロとフィンを見る。

 なぜ水着なのか。

 なぜここに居るのか。

 なぜヨハネと仲良さそうにしているのか。


「なにぼーっとしてんのよ、座れば?」


 呆気にとられていたアズに、フィンが手招きする。

 とりあえず言われた通り席に座った。


「えっと……はい」


 広い丸型のテーブルに椅子は六つ置かれている。

 ヨハネは取り皿にスイカを乗せて配った。


「とりあえず食べてみろ。甘いぞ」


 3人はそれぞれ座ると、フィンがナイフでカットしたスイカに手を伸ばす。

 アズが小さな口を開けてスイカに齧りつくと、口の中で子気味良い音を立てる。

 甘い上に水気も多く、当たりのスイカだった。


 種をペッと吐き出す。


「美味しいです」

「だろ。近くの菜園で採れたのを売ってるんだと。幾つか買って帰ろうかな。足が早いらしいから売り物には出来そうにないが」

「それは良いと思います。それで、その」


 アズはスイカを食べ終わり、口をタオルで拭い綺麗にした。

 改めてフィンを見る。

 

 いつも着ていた黒い衣装から水着になっており、サンダルを履いている。


 水着は黒いビキニだ。

 肌が白い分、黒が際立つ。


 それに太腿に巻いたナイフを収納するベルト。

 無駄に色気がある。


 歳は近い筈だが、アズは自分の身体を見下ろす。


「なによ」


 ぶっきらぼうな言い方だった。

 闘技場では猫を被っていたが、もうそれは完全に捨てたらしい。

 前回会った時もそうだった。


「フィンさん、ここで何をしてるんですか?」

「休暇を楽しんでるんだけど?」

「それはそうでしょうけど、そうじゃなくて!」


 アズがなんとか自分の思いを伝えようと四苦八苦していると、フィンがその様子を見て笑った。


「相変わらずね。まぁいいわ。情報提供に行ったらバカンスに行ったとか言われたらね。私だって休みたいわよ」

「割と優秀で助かってる」

「当たり前だっての。その辺のと一緒にしないでほしいわ」


 フィンはまだ残っていたスイカを一切れ掴み、乱暴に齧る。

 ヨハネは若干八つ当たりだと思いつつも、役に立っているのは事実なので追いかけてきたフィンを接待をしていたのだ。


「それで、首尾はどうだった?」

「あ、そうでした。無事依頼完了です。これは依頼料で、これが現地で見つけた物資です」


 アズが金貨の入った袋と真珠や珊瑚が入った箱を置く。

 ヨハネは金貨を確認した後、箱を開ける。


「おっ」


 思わず声が出た。

 宝石の鑑定はヨハネの専門分野ではないが、道具屋として最低限の目利きは出来る。

 本職に比べれば大雑把になるが、価値の有無位は分かるのだ。


 懐から鑑定用の眼鏡を取り出し、真珠を一粒掴んで眺める。


 傷の有無、形の綺麗さ、輝き。

 どれをとっても全く問題がない。


 市場で買えば一粒で金貨5枚は下らないだろう。

 10粒でアズが買えてしまうほどの質のよさだった。


 勿論ヨハネはそれは口に出さない。

 幾らなんでもそれを言ってアズが喜ぶとはとても思えなかった。


 珊瑚に関しては綺麗ではあるが、価値まではとても分からない。

 どちらもオークションで処分するのが良さそうだ。

 大きな臨時収入になるだろう。


「良いものを拾ってきてくれたな。良くやった! 夕食は豪華なものにしよう」

「はい!」

「ねぇ、勿論私の分もあるのよね? 慰労が私にも必要だと思うんだけど」

「仕方ないな……。分かったよ」

「やった。大きな海老食べたいのよね」


 アレクシアとエルザはちまちまとスイカを食べていた。


「どう思いますー?」

「何がですの」

「三角関係、とか」

「下世話ですわねぇ……。もう少し成長してからでしょう」

「そっかー」


 疲れもあり、比較的元気な3人を見守るアレクシアとエルザだった。

 アズ達はその後すぐに一度眠る。


 その間ヨハネとフィンは海辺でゆっくりしていた。


 夜になるとこの辺りで一番高級な食事処に入る。

 ギルド制で色々と制限がある都市とは違い、色んな物を食べられるようだった。


 フィンがメニューを開いて即様々な注文をする。


「おいおい。食いきれるのか?」

「色々と食べたいし。それに取り分けばいいでしょ? 冒険者は食べるのが仕事何だし」


 どうやら自分の物だけ注文した訳ではないようだ。

 といっても、大きな海老の丸焼きは確実に自分用なのだろうが。


「お前達も遠慮するなよ」

「ね、値段が……」

「これとこれを」

「ワインとーチーズとー」


 アズが値段で怯んでいる間にどんどん注文していく。

 覚悟を決めて、幾つか注文した。


 緊張して汗をかいてしまったのでグラスに注がれた水を飲む。


「あんた普段何食わせてんのよ。こいつ等ならそこそこ稼げるでしょう」

「俺の手料理だが」

「はっ!? ああ、そう……」

「美味しいですよ。最近は手伝うついでに教えてもらってます」

「まぁ料理は出来た方が良いけど。あんた等が良いなら別に構いやしないわ」


 フィンはそう言うと小皿に盛られたナッツを摘まんで齧る。


「私的にはもっと食事にワインを出してほしいですねぇ」

「一食で一本飲みきらないなら出してやるよ」

「グラス一杯なんて足りないですよー」


 運ばれたチーズを食べたエルザは、早速ワインの注がれたグラスを持ち、香りを楽しんだ後口に含む。


「んー、おいし」

「私も貰いますわ。ん、いけますわね」


 どんどんと食事が運ばれ、話はアズ達が依頼で行った小島の事になる。

 クラーケンにオクトパス。それに洞窟の地下の事など。


 話しながら食べる食事はどれも素晴らしかった。

 料金に見合う内容で、口も軽くなる。

 ちなみにフィンは結局海老を食べ切れず、アズと2人で完食していた。


 アレクシアは魚のムニエルがいたく気に入ってお代わりまでする。


 しばらく楽しい食事が続いた。


 

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