第29話 感謝しなさい!
「感謝しなさいよね。私たち奴隷に」
アレクシアはそれなりにある胸を張り、両腕を組む。
偉そうだなこいつ。
だが今回はアレクシアのお陰で窮地を脱することが出来た。
とりあえず黙って聞く。
「ダメだしするわよ! まず商人と領主の力関係を分かってなさすぎ」
そう言って俺を指さす。
「いやいやそれ位は」
「黙って聞く!」
最近こんなのばっかりだ。
俺は諦めて聞き役になる。
「分かってないからこうなってんの。ご主人様、あんたね。領主から見たら真っ先に鬱陶しいって思われることしたの」
アレクシアがガラスのコップに水を注いで、一気に飲み干す。
「領主……まぁ貴族と言い換えてもいいわ。貴族は帝国だって王国だって本質は変わらないわ。青い血は面子が大事なの。商人風情に表立って文句を言われたくないのよ」
「だから俺が捕まったのか?」
「そうよ。集めたのはあんたなんだから、真っ先に狙われるのもあんた。あのままなら見せしめにされたと思うわ」
「マジかよ」
「おおマジよ。財産召し上げの上で処刑ね。感謝しなさい。私達に。というか私達だってどうなっていたか」
「俺はただ無駄にモノに金は払えないって意見を伝えたかったんだが」
ため息を付く。
のってこない商人仲間が多いと思ったんだよなぁ。
「方法を考えなさいよ。なんで正面から言うのよ。商人の武器は頭とお金でしょうが。貴族の武器は地位と権力よ。金に困ったら裏で頭を下げても表では絶対下げない」
「元貴族が言うと説得力があるな」
「うるっさいわよ。悪かったわね。貴族の武器を失くした貴族令嬢で」
アレクシアが鼻を鳴らした。
「俺がヘマをしてあのガキを刺激したのは分かった。迂闊だった。だがどうやって俺を釈放させたんだ? とてもじゃないが奴隷の話を聞くような相手じゃなかったんだが」
「あの領主の息子が言う事を聞く連中は居るでしょ、あいつの取り巻きはどこの誰だった?」
太陽神教か。
そういえば枢機卿がどうこう言ってたな。なぜあの場でそんな話が出るのか不思議ではあったのだが。
「本来は貴族にとっては宗教……それも太陽神教なんて国を伴った大きな宗教組織は目の上のたんこぶなんだけどね。帝国でも若い貴族が太陽神教に懐柔されている事は問題になっていたわ。ここも同じなんでしょう」
「なるほど」
確かにズブズブな関係だったなあいつ等。
太陽神像を領民の金で建てようなんていかれた事をするくらいに。
「太陽神教の内情についてはエルザが結構詳しかったわ。敵対してるだけあってよく調べてるのね」
「いつかはお返ししようと思ってましたからねー」
エルザは何時もの笑みで返事をした。何を返すつもりだ。積年の恨みか。
アズは話についていけずに舟をこいでいる。
和むなぁ。俺もそっちに行きたい。ダメか。
「あ、先に言っておくわ。今回の依頼料は無いから。銅貨一枚もね」
「なに? うまくいったんじゃないのか」
「ええ、トラブルが沢山あったけど上手くいったし、臨時収入も沢山あったわ」
「何でそれが無くなるんだ」
「あんたの所為でしょご主人様ー!!」
アレクシアに吼えられた。ああ耳が、耳が……。
「まぁ、枢機卿になんとか賄賂を渡して辿り着いてお布施に包んだのよ。少ない額じゃ話にならないから今回の利益、依頼料丸ごとね。それなりの額だったし太陽神教は今お金集めに精を出してるからなんとか話が付いたわ」
太陽神教の枢機卿が多額のお布施を受け取ったから、気を利かせて俺を助けるように指示を出したという訳か。
「俺を助けるとは限らないんじゃないか? そのままポッケに入れれば良いだけだし」
「そんな事しないわよ。次のお布施だって向こうは欲しいのよ」
「生臭坊主って訳か。今回はそれに助けられたから文句は言えないな」
「ええ、ええ。あのクソ共の懐に金が入るのは不愉快極まりないですが、私達にはご主人様が必要です。奴隷に権利はありませんから、ご主人様が死ねばどうなるか」
その言葉にアズが目を覚まして動揺した。
「し、死んじゃダメです」
アズが見た目からは考えられない力で俺の服の襟首を揺する。
世界が……回る。
「いや生きてるから。大丈夫。今回はとりあえず助かったみたいだ。ありがとうな」
「私の為だから構いませんけど」
「良かったですねー。良いご主人様みたいですし、長生きしてくださいね」
俺が想定していたよりもあの状況はまずくて首の皮一枚だったようだ。
領主の代理とはいえ、平民一人如何こうするのは簡単という訳か。
少し認識が甘かったな。奴隷達が居なければあのまま終わっていた。
俺は棚からワインを出して直飲みする。
今更背筋が寒くなってきた。体を温めなければ。
半分ぐらい一気に飲んで酔いが回ってきた。
「飲みすぎよ。後は寄こしなさい」
「好きにしろ……眠い」
アレクシアにワイン瓶が奪い取られる。
押さえていた疲労がアルコールが回り一気に溢れてきた。
全く最悪の体験だったぞ。まさか奴隷達じゃなく俺が危険に陥るとは。
寝よう。
対策は明日から考える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます