迷子の風船

クロノヒョウ

第1話



「おい、なんであんなところに風船があるんだ?」


 二人の宇宙人が地球のすぐ上を通りかかった時だった。


「本当だ。珍しいな。ちょっと見てみようぜ」


「おう」


 二人は宇宙船を降りると風船を手に取った。


「ん? この風船なんか付いてるぞ」


「なんだ?」


「なんだろうな、これ」


 二人は風船に付けられていた小型の黒い物を横にしたりひっくり返したりしながら眺めていた。


「俺たちの宇宙船のカメラに似てるな」


「そうだな。てことはカメラじゃないのか?」


「かもしれないな」


「でもなんでこんなところに?」


「わかんねえけど風船が迷子になってるのは間違いないな」


「ああ、地球に戻してやろうか」


「うん、それがいい」


 宇宙人はカメラが付いた風船をおもいっきり地球に向かって投げた。


 風船は勢いよく真っ直ぐに地球へ向かっていった。


「はは。俺たちいいことしたな」


「そうだな」


「こんな日は帰って酒でも飲もうぜ」


「おっ、いいね」


 二人の宇宙人は満足そうに宇宙船に乗って帰っていった。



「オイ! 何なんだこいつら!」


 その頃地球でスペースバルーンのカメラの映像を見ていた男が叫んでいた。


「オイオイオイ! カメラに触るな!」


「どうしたのですか? 教授」


「宇宙を撮影しようとやっとの思いで飛ばしたスペースバルーンのカメラをこいつらが……」


「何ですか?」


 若い男も教授が見ている画面を覗き込んだ。


「ああ、宇宙人ですね。あははっ」


 画面には二人の宇宙人のどアップの顔が映り、カメラを回しているのか宇宙がぐるんぐるんと回っていた。


「ああ~もう。いいから、早く手を離せ」


 教授はイライラしながら画面を見つめていた。


「これはこれで面白いじゃないですか」


「そうかもしれんが……うわっ! こいつらバルーンを投げやがった!」


「わっ、これは大変ですね教授」


「なんてことだ……」


 教授は頭を抱えてしまった。


「いいから教授、早く逃げますよ!」


 若い男は教授の腕を引っ張り急いで外へ出た。


 ――ドカーン


 その瞬間、教授たちがいた建物が爆発した。


 いや、爆発ではなく、宇宙からものすごい勢いで投げ返されたスペースバルーンによって建物が破壊されてしまったのだった。


「……まあ……珍しいモノが撮れたということで、あの映像を売ってやり直しましょうよ」


 若い男が明るく教授を励ましていた。


「しまった……」


「どうしました?」


「映像を録画するのを忘れておった……」


「……え」


 二人はしばらく何も言わずに破壊された建物をただ眺めていた。




          完




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

迷子の風船 クロノヒョウ @kurono-hyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ