第52話 仲直り 三度目の正直

「……けっこう待たせちゃったな……奈緒」


倒れたまま動かないエリトを尻目に、

俺は椅子に縛られたままの奈緒の元へ歩く。


「……お兄……ちゃん……」

「奈緒!……もう大丈夫だ」


拘束を解くと、奈緒はヨロヨロと立ち上がる。

だが、相当消耗しているようですぐにこちらへともたれかかってくる。


「無理するな!全部終わった!」

「……私……は……ずっと言わなきゃいけなかった……

あの時……この世界に生まれ変わる前……トラックに跳ねられた時から……

庇ってくれて……ありがとう……って……どうして……私は……言えなかった……」

「……!俺も言わなきゃいけない事が有る」


奈緒の背中に手を置き、彼女の身体を支える。


「あの時……守りきれなくて。

ずっと……何年も……お前が心に秘めてた思いに気づけなくて!

俺は本当に馬鹿だったのに、お前は偉いよ……充分頑張った」


「……お兄ちゃんが馬鹿なら……私もそうだよ……!偉くなんかない……

勝手に溜め込んで……一人でなんでも出来ると思ってて……勝手な事して……」


奈緒は涙ながらに弱った声でそう言う。

ようやく……俺は妹を導く事が出来たのだろうか。


「奈緒、歩けるか?とりあえず病院か何処かに……」

「……!!!」


視界の端で何かがキラリと光った気がした。


「お前……!」


光の正体は鋭く尖ったガラス片。

そして、それを握りしめて立ち上がっている奴は……


「感動……的だなぁ……!?」


エリトだ……あれだけ戦ってまだ起き上がる気力があるのか……?


「クソッ!奈緒!」

ドンッ!


俺は奈緒の身体を横に突き飛ばし、彼女をエリトの前から退ける。


「どっちでもいいから死んどけぇ!!!!!」


奈緒を突き飛ばすと、

ほぼ同時にエリトがガラス片を突き出すように突撃してきた。


「ドスッ!! 」


まるで熱した鉄を押し込まれたような、強烈な感覚が腹部に走る。


「……!!!ゴホッ……」

バシャッ……


一瞬何が起きたのか分からなかった。

口から血が溢れて床に飛び散り、思わず下を見ると

自分の腹部にガラス片が深々と刺さっていた。


「ハ……ハハハ……!やったぞ!殺した!俺の敵を!やっと!ハハハ!」


痛みに膝を着きそうになった。

だが、狂ったように笑いだすエリトを見て、俺は足と拳に力を込める。


「……誰が誰を殺したって……!?」

「俺が!お前をだよ!ノーティス!」

「ふざ……けんな!

ようやく……兄妹喧嘩から仲直りしたってのに……邪魔してんじゃねえよ!!」


ドゴオ!!!


最後の力を振り絞り渾身の拳をエリトに叩き込む。

まさかここから反撃されるとは思っていなかったようで、

エリトは真正面から俺の拳を喰らった。


ゴチン!

「ゴッ……!?嘘だ……ろ……?」


吹っ飛んだエリトは壁に後頭部を激しく打ち付け、

信じられないといった顔のまま、白目を向いて気絶した。


「……流石に……限界だな……」


……手足の感覚も薄れてきた。

俺は立っていられず倒れそうになる。


「お兄ちゃん……!」


だが必死に立ち上がった奈緒が俺の身体を支えてくれた。

涙目の彼女と目が合う。


「しっかり……して……!」

「なあ……奈緒……一つ聞いてもいいか?」

「そんな状態で何を……!?」

「俺さ……今度はさ……お前の事ちゃんと守れたよな……?」

「うん……!私は生きてるよ……!守ってもらったから!

でもお兄ちゃんは……! 」

「……それなら……よかった……。

泣くなよ……せっかく守った奴の顔が良く見えないだろ……?」


奈緒の顔についた涙を拭う。

顔は前とまるで違うはずなのに、不思議と俺の妹の顔に見えた。


それを見たら大切なものが戻ってきたように安心してしまって。

俺は必死で保っていた意識を落とした。



一回目、転生前のトラック。

二回目、クラス対抗戦でのエリトの襲撃。

三回目、今回。


次回、エピローグ。


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