第51話 鬼退治

「ゔぅぅあ゛ああ!」

「もうやめろ! 」

ドスッ!


エリトは叫びながらこちらに飛びかかって来る。

そんな奴に俺は腹部を狙った拳をカウンターにぶち込む。


「ゴホッ! 」


彼の吐いた胃液が俺の背中に飛び散り、生暖かい感触が服越しに伝わる。


ガスッ!

「ッ! 」


だが、彼はほとんど怯まずに肘鉄を俺の首筋に見舞う。


「くらえ! 」


そのうえ追撃の膝蹴りが目の前に迫る。


ガシッ!


俺は奴の膝を右手で受け止め、ついでに左手を彼の膝裏に回す。


「寝とけっての! 」

ブォン!

「グオ!」


そのまま彼の身体を放り投げた。

なかなかの勢いで彼は背中を地面に打ち付ける。


「……」

「うおおおおぉ!! 」

ボォン! ボン! ボン!


「やっぱり終わって無いか! 」


案の定彼はまだ起き上がり、お返しと言わんばかりに火球を三発放ってくる。

俺は後退しながら全て躱した。


「俺が終わる訳ねぇだろうがぁ! 」

ゴオオ!ボン!ビシュウ!


近接戦は不利とみたのか、それともやけになっているだけなのか、

エリトは火球と水の刃を乱打してくる。


「無茶苦茶やりやがって……!」


近づく事も出来なさそうなので、全力で避ける事に徹し続ける。


コツン。

「?……! 」


突然カカトに硬い感触が伝わる。


後ろを見ると空が広がる学校敷地の端。

つまり後一歩下がれば、俺は階段数十段分……真っ逆さまに落ちてしまう。


「かかったな馬鹿が! 」

「なんでフェンスも何も無いんだよこの学園!」


見栄え重視の構造に文句を放った瞬間に、

この状況を狙っていたのかエリトが突っ込んでくる。


「ノーティスゥ……! 」

「エリ……トォ……!! 」


胸ぐらを掴まれたまま体重をかけられ、俺の上体は敷地の外へとはみ出る。


「落とすならお前も覚悟出来てるんだろ……!?」

ガシッ!


エリトの太腿辺りを掴み、

俺が落ちれば自分ごと落ちてしまう体勢になる。


「……! こいつ!」

「覚悟が足りなかったみたいだな! 」


状況を理解し、彼の力が一瞬だけ緩む。

俺はその隙を突き、彼の身体を横に流した。


「……仕切り直しだ」


彼は三歩程よろめいて、間合いの図り合いが続く。


「……しぶとい野郎だな、どこまでも……」


流石のエリトにも疲労の色が浮かんできているように思える。

……それは俺も同じなのだが。


「ハア……ハア……お前にだけは言われたくないよ」

「うるせえ! 燃え尽きろ! 」


もう俺の声すら聞きたくないのか、遮るように彼は叫ぶ。

彼の手からは火球が飛び出し、思わず俺はしゃがむ。


「……?」


だが、火球は見当違いの軌道を描いて、空に向かって飛んでいく。


ギシ……バキバキバキ……


「!?」


突如空から響く、何かが軋むような音。

俺は彼の狙いに気づき、咄嗟に身体を投げ出すように動く。


バキャア!ゴオオオ……

「……もう、本当になりふり構わないって感じだな……」


彼の狙いは俺達を包んでいた学園の街路樹だった。

枝に当たった火球は木を包み、幹から切り離され燃え盛る枝葉が、

俺が先程まで立っていた位置に落ちる。


ゴオオオ!!!


炎はやや枯れ気味だった木を瞬く間に燃やしていき、

周囲はどんどん火の明かりに照らされていく。


「ハア……ハア……この、野郎……! 」


もう策は尽きたのか、いよいよエリト本人が向かってきた。


「オラァ! 」

「遅い! 」


彼の右拳を受け止める。


「……こんな火事が起きれば、学園に異状が起きているのに街の人達が気づく。

もう時間切れだ、エリト! 」

「クソ野郎が……! 」


炎に照らされて、俺の哀れんだような顔が良く見えたのか、

ますます彼は顔に憎しみを浮かべている。


……もう終わらせよう。


「……終わりだ! 」

「ぶふぉ!?」


俺は彼の身体を校舎の方向に突き飛ばすと、

彼は校舎の壁に打ち付けられる。


なんの因果か、彼が打ち付けられた場所は生徒会室の窓だった。


「エリトォ! 」

「ノーティス! 」


互いに残る力の全てを右拳に込め、相手の顔を狙う。


「ドラァ! 」

「グホォ!?」

パリィン!ガシャン!


先に拳を当てたのは俺だった。

エリトは窓を突き破って生徒会室の中に放り出された。


俺も彼が突き破った窓から生徒会室に入る。


「……俺の勝ちだ」


ガラス片にまみれて気絶した彼に向かって勝利宣言をした。

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