第35話 昼食の時間

「アイツとの決着は付きそうで安心したけど……」


それはそれとして、団体戦が不戦勝で終わるとすると次の予定はどうなるんだ?

俺がそう思った瞬間、アナウンスが響く。


「え〜!皆さん!団体戦は負傷者多数により黄組の不戦勝が決まり!

一位黄組、二位赤組、三位青組で終了です!前倒しで団体戦が終わってしまいましたので、今からは前倒しの昼食の時間とします!英気を養いましょう!」


いつの間に司会席に戻っていた

カイの高くよく響く声で校庭中にそう伝えられた。

現在時刻は12:00、昼食としてはピッタリな時間だ。


「さて、司会もああ言ってるし食堂に行こうよみんな」

「うーす」


傷んだ身体を擦りながらクラスメイト達は続々と立ち上がり、

俺達は食堂に向かう。



「今日は本当に忙しいこと……次の注文は?」

「カルボナーラパスタで!」

「あいよ!」


食券を受け取り、俺は事前に取って置いた席に向かった。

だが、そこには俺が呼んだ覚えの無い人間が我がもの顔で座っている。


「おい……そこは俺の席だぞ?」

「あ?」


筋骨隆々とした体格を黄色の制服で包んだ茶髪男。

存在を忘れかけていたが、彼はジャイクス。

いつだったかトーシャ村への道を大木で防いだ事件の実行犯だ。


「そこのテーブルにはちゃんと俺の木刀が置いてあっただろ?」

「さあな……俺には見えなかったぜ?」


彼がそう言うのでテーブルの上を見てみる。

……確かに存在しない。じゃあ俺の木刀は何処にいった?

ジャイクスが座る椅子の真横に落ちていた。


「お前……わかってて退けただろ?」

「ちっ……しつけえなぁ……こっちはお楽しみだった団体戦に

参加出来なくてイライラしてんだよ。どこぞの手加減を知らないリーダーさんの

せいでなぁ?」


なるほど、こいつは狙って俺に因縁をつけに来た訳か……


「それは悪かったな……じゃあどいてくれよ」

「んだと?」

「それとこれとは話が別だろ……?」

「上等だ……さっき暴れられなかった分今やってやるよ……」


ジャイクスが椅子から立ち上がり、俺と睨み合う。


「ちょっと待ちなって……」


今にも喧嘩になりそうだったその時。俺達の間に割って入る人間が登場した。


「お前……ライト?」


そう、この世界の主人公である彼だ。


「何があったかは知らないけど……食堂で暴れるなんて皆の迷惑だろう?」


平然ともっともなことを語る。


「……俺もそう思うよ。でも先に喧嘩を売ったのはこいつだよ。

俺の席からどいてくれないんだ」

「ふーん……そうなの?ジャイクスくん?」

「……どいつもこいつも邪魔しやがって……先にてめぇからやってやろうか!

転校生!」


怒りを抑えられなかったジャイクスがライトに向かって拳を振り上げる。


「うわ!いきなりなにすんの!」

「……?なんだと?」


だが次の瞬間、さも当然のように彼はジャイクスの腕を掴んで止めていた。

しかも、ジャイクスは押し切ろうと力を込めているのだが、

掴まれてから奴の腕は少しも動いていない。

どちらかと言うと細身な体型の彼には似合わない剛腕だ。


(強いなぁ……)

「どうやら君の方は話が通じないみたいだ……」

「クソ……ビクともしねえ」

「ちょっと大人しくしててもらおうか……セェイ!」

フワッ!

「!?!!?!」

ビターン!


次の瞬間。ライトは柔道のような動きでジャイクスを一本背負いで投げ飛ばし、

地面に叩きつけた。ジャイクスは受け身を取れなかったようで何が起きたか分からない表情のまま倒れている。


「ザワザワザワ……すげぇー……あの筋肉ダルマを投げちゃったよ」


かなり大きな衝撃音が響いた為に食堂中の注目が集まっている。


「……ごめん。喧嘩になりそうだったから止めるつもりだったけど、

結局騒ぎにしちゃったよ……」

「いや、俺は構わないよ。ありがとう」


ライトは申し訳無さそうにそう言うが、これから大将戦で彼と

戦いになる事を想像すると感謝より恐ろしさの方を強く感じてしまう。


「あーららこれは酷い……あ、カルボナーラパスタお待たせしました」

(何かしら倒す策を考えないと……)


俺は立ったままでパスタを受け取りながら、そう考えた。

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