第25話 トーシャ村へ

旅行途中の車の中とはこんなに苦しい物なのかと俺は思った。

旅行に行った記憶は高校の修学旅行くらいしかないが、

あの時はもう少し楽しかった気がする。


ガタガタ……


トーシャ村行きの馬車に乗って三十分程、

この車体が揺れる音も聞き慣れてきた。


音だけならまだ良いのだが、揺れる度に荷台を改装した客車に乗っている

俺の身体もガタガタ揺れて、内臓や神経が揺さぶられる。


おまけに窓が無いので暗い上に景色を楽しむ事も出来ない。

暗いから寝ようと思うと馬車の揺れで起こされる。


……正直、安かったとは言え馬車に乗る選択は間違いだったかも知れない。


「御者さん!トーシャ村とかで噂になってる事ってあります?」


「噂かぁ……強いて言うなら新手の盗賊団が生まれたくらいだなぁ……

もし出くわしたら何とかしてくれよ!制服を見るに学園の生徒さんだろ?」


「私は隠れますけど、そこのノーティスさんが何とかします!」


カイは環境に振り回されないタイプのようで、

馬車を運転している御者と雑談をしている。


何でも良いから早くトーシャ村に着いてくれないかな……


ガタッガタ……ゴトゴト……



「うーん!新鮮な森の空気が美味しいですねー!」

「……あぁ、そうだな」


長かった片道一時間の馬車の旅が終わり、トーシャ村に着いた。

カイの言う通り森独特の新鮮な空気が村全体に満ちている。


「いつつ……」

「大丈夫ですか?」


長時間同じ姿勢でいたせいか、節々が痛む。


「心配してくれてありがと……」


身体をさすりながら歩きだす。

「トーシャ村、歓迎」と書いてある看板の横を過ぎると、

それなりに活気のある村があった。


点々とそれなりの作りの家があって、村の奥を見れば大きな屋敷があった。


「あらァーよく来たわね〜」


知らない人間がいるのは稀なようで、

すぐに村の主婦らしきエプロンを着けた女性に声をかけられた。


「おっとちょうど良い、ライトさんの家ってどこか分かります?」

「ライトくん?あいつならちょうど昨日学園に行っちまったよ」


ちょうど入れ違いになってしまったらしい。


よく考えれば俺達がこの村に来れたんだから

主人公の彼も学園に行けるようになってるよな。


早速目的の一つを失ってしまった。


「そうですか……ありがとうございます」


主婦に礼を言って、振り返る。

……カイがいない。


「あれ?アイツどこ行った?」

「ピンク髪の娘ならあのお屋敷に向かって走っていったわよ?」

「ありがとうございます!」


主婦が目ざとく見てくれていたようで、再び礼を言って俺も屋敷の方に向かう。



洋風の屋敷に近づく。

カイは屋敷に続く道のど真ん中に無言で立っていた。


「カイ!一人でどっか行くなよ!」

「あ、ノーティスさん。いや、すいません、

こんなに大きな家見たの久しぶりでテンションあがっちゃって……」

(子供か!)


テンションのままに突き進むのは良い事なのか悪い事なのか。

俺には判断出来ないが、同行者を置いていくのはやめて欲しい。


「で、なんで道のど真ん中で止まってるんだよ?」

「……アレ見てください」


カイが指差す方向には屋敷の鉄門があった。

そして、その鉄門の前で下を向いて落ち込んでいる人物が居る。

アイツは……


「……ん?マロン?」

「ええ、なんか私ですら話しかけるのためらっちゃうレベルで

暗い雰囲気で……」


いったい何があったのだろうか……

俺はためらいより心配が勝ったので声を掛けに行った。

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