「あなや。」の話

卯野ましろ

第1話 始まりはグロテスクな挿絵

 私は高校時代、国語の授業で衝撃的なものを見てしまった。それは国語の教科書に載っていた「女性が鬼に噛まれて大量出血している」挿絵である。

 あまりにもインパクトが強くて、少なくとも二度見はしたと思う。「え!」と驚いた瞬間を私は忘れない。もうとにかくすごかった。あの出血の様子は「ブシャア~ッ!」という効果音が似合うだろう。しかもカラーイラストなので生々しかった。これが「あなや。」で済まされるのか、と文章を読みながら思った。

 しばらくの間、私は授業以外でも国語の教科書を開き、その挿絵を凝視していた。そして見る度に、こう思った。


 ……ねぇこれ、マジで教科書に載せて大丈夫なの……?

 なかなかショッキングじゃないか?

 確かに義務教育は終わったけどさぁ……。

 ねぇ、これ良いの?

 しかもカラーだから、すごいリアルじゃん!


 私のこのような感想は、否定的な意見などではない。全て文末にwが付くようなものだ。つまり私は「これ載せて良いのかよw」と、おもしろがって挿絵を見ていたということである。

 一人で楽しんでいるのも少々淋しかった私は、他の人々にその挿絵について感想を聞いていていた。「あれグロテスクだよね」と笑いながら答えてくれた同級生に「だよね!」と喜んでいた私。「こんなに気になっているの私だけかなぁ」と少々不安だったので、すごく嬉しかった。

 国語の授業で誰も、あの挿絵をイジらなかったことが不思議だった。「あなや。」については結構イジッていたが。

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