新たな依頼
ある日のこと、早朝に、カラーズの小屋の戸が叩かれた。
その時起きていたのは、ジェイコブとエミリーだけだったが、そのノックの音に全員が飛び起きた。
それが、異質な事だからである。
まず、カラーズのアジトを尋ねる者は滅多にいない。戸が叩かれる事自体がないのだ。
そして次に、やはりこんな早朝にカラーズを尋ねる者はいないのだ。
二つの異常事態に、カラーズの全員に緊張が走る。
「俺が出よう」
一瞬で着替えたマイケルがそう言って、扉の前に立つ。
異常事態と言っても、わざわざ戸を叩いているのだ。
襲撃する気なら黙って襲えばいい。
だから、マイケルは警戒しながらも、扉を開けたのだ。
「よう」
そこには、ジェイコブ達に依頼を持ってくるジェザ・ド・レンギャング団のボブがいたのだった。
知った顔を見て、マシューやオリビアは緊張を解く。
しかし、マイケルやジェイコブは、緊張したままだった。
それには、やはり二つの理由があった。
まず、ボブがこの小屋を訪れたことがない。あまりにも不自然である。
更に、ボブの顔が極めて険しかったからである。
「どうしたんですかボブさん。ここに来るなんて珍しいですね。それにウィリアムさんもいませんし」
とりあえずマイケルは、にこやかに対応する。
「ああ。ウィリアムなら死んだからな」
ボブは、さらっとそんなことを言った。
それにマイケルの笑顔は張り付き、他の仲間達も驚いて絶句したのだった。
何故なら、カラーズのメンバーは、つい最近までウィリアムに会っていた者もいたのだから。
「今日はそのことで話に来た」
「あ……はい。どうぞこちらへ」
マイケルは我に返り、ボブを案内しようとする。
「いや、ここでいい」
しかし、ボブは断った。
「ジェザから裏切者が出た。ウィリアムはそいつに殺されたんだ」
ボブの表情はとにかく険しく、怒りが見て取れる。
だが、しっかりと握られたその手を、振り下ろしたりすることはなかった。
マイケルは、そんなボブに声をかける事はしなかった。
慰めの言葉や、同調の言葉は、逆効果になる可能性もあるからだ。
「ここに必要な情報が書いてある。それと金は先払いだ」
マイケルはまだ依頼を受けるとは言ってないが、ボブはマイケルに二つの封筒を渡してきた。
先払いなど初めての事である。
これはボブの個人的な依頼であり、ボブが生きて戻れるのかもわからないからなのだが、マイケル達にはそこまではわからなかった。
「じゃあな。頼んだぞガキ共」
ボブがこれからどこに行くのかはわからない。
だが、何のために動くかは、カラーズの誰もがわかるのだった。
「はい。任されました!」
マイケルはここに来て、初めて声を出す。
そのマイケルの返事に、ボブは後ろを向いたまま、手を開いて返事を返したのだった。
そして、ボブがいなくなると、マイケルは仲間達と向き合う。
「じゃあみんな。話は聞いての通りだ」
「そんなまさか……ウィリアムの旦那が……」
「俺、こないだ飲み物奢ってもらったぜ」
死体など見慣れているが、やはり知った人間が死ぬとなると、ショックを隠せない。
「ギャングの末路なんてこんなものかもしれない……」
汚い事をして生きているのだ。
その先にあるものが、綺麗な死なわけがない。
「だけど!裏切者は許せないよな!みんな!」
「ああ!」
マイケルが鼓舞すると、全員がそれを支持したのだった。
「さて、それじゃあ中を確かめるか」
マイケルは封筒を開ける。
当然、金が入った方よりも先に、情報が入った方だ。
「裏切った奴の名前は、ジャクソン・クルスだ。2年前に組織に入って、ヒットマンをやっていたみたいだな」
「マジかよ?じゃあ銃持ってんのかな?」
メリカ王国は銃社会ではあるが、とはいえ、気軽に撃てるわけではない。
だから、カラーズには魔導銃はないのだ。
「だろうな……裏切りの理由は不明だな。2年間忠実にジェザに尽くしてたみたいなんだが……ウィリアムさんと仕事中に、ウィリアムさんを撃って逃亡したらしい」
あまりにも理不尽な事である。
だが、ギャングの世界ではそう珍しくないのかもしれない。
「これが写真だな」
写真に写る男は、いかにも大人しそうな雰囲気をした、普通の中年の男だった。
「雰囲気あるな……」
だが、その渋い風貌は、まさしく寡黙なヒットマンという感じだった。
「それで、どうするんだ?」
イーサンは心配そうに尋ねる。
「いつもと同じさ。小屋には三人残って、二人づつ二手に分かれて足で探すんだ」
それを聞くと、ジェイコブ達は準備を始めた。
誰がとは聞かない。荒事はマイケル、イーサン、ジョシュア、ジェイコブと決まっている。
「ただし!いつもと違って、見つけたら尾行しながら連絡をするんだ。俺はボブさんに連絡する」
理由としては、危険だからと言うのと、ボブ自身で決着をつけたいのではないかというのがあった。
「わかった」
皆それを承知の上で、神妙な顔つきで頷いた。
「じゃあ、俺とジョッシュ。ジェイクとイーサンで行こう」
「ああ」
返事をし、早々と出ようとするジェイコブの服が掴まれた。
エミリーである。
「気を付けて」
エミリーは短く、それだけ伝えた。
普段はこんなことは言わない、だが今回は特別心配なのであろう。
「ああ」
ジェイコブは、やはり短く答えると、外へと向かったのだった。
そして、そのやり取りを、ジョシュアは静かに見ていた。
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