異世界ギャングマフィア物語~現代でマフィアだった俺は、記憶を失いながらも異世界でもマフィアとして生きていくしかないようです~

@waita

プロローグ

 幾重にも行き交う飛行機の一つから、一人の男が日本の空港へと降り立った。

 彼の名前は、ジェイコブ・スミスという。

 彼は護衛に囲まれていた。

 護衛達は、屈強な男ばかりで、いかにもな見た目の者たちばかりである。

 そんな護衛が必要なほど、ジェイコブは重要な人物なのである。

 そう、彼は、アメリカのニューヨークで一番大きいマフィア「パーメリアン・デーモン」のアンダーボスの一人なのだ。


「こちらです、ジェイク」


 部下はそう誘導し、ジェイコブは黙ってついて行く。

 ジェイコブは、無口な男だった。

 それは、昔からである。


(何故、俺がこんな僻地に……)


 ジェイコブは歩きながら考える。

 だが、その理由はジェイコブ自信にもわかってはいた。

 

 ジェイコブの両親が、日本人とアメリカ人だからだ。

 と言っても、ジェイコブ自信は両親には会った事もない。

 それは、生まれたばかりで捨てられたからだ。


 ジェイコブはゴミ捨て場に捨てられ、しかし運よく近くを通った売春婦に拾われた。

 その売春婦こそが、実質ジェイコブの母親である。


 しかし、ジェイコブが彼女に対して覚えていることはない。

 たまに気まぐれに飯や物をくれ、たまに気まぐれに話しかけて来て、そしてずっと俺の隣で客相手に腰を振っていた。

 そんな記憶しかないのだ。


 何故なら、彼女はジェイコブが10歳の時に薬で死んでしまったからだ。

 元々重度のドラッグジャンキーだった彼女だが、ジェイコブにドラッグを使った事はない。

 それは、母親の愛情だったのか、それともただ、ジェイコブに使うドラッグがもったいないと思っていたからかは、今となってはわからない。


 しかし、ジェイコブは彼女に感謝をしている。

 気まぐれでも、拾ってくれたことや、名前もくれたことに対してだ。


 母親が死んでから、まともな教育も受けていないジェイコブがどうなるかなどは、誰にでも想像はつくだろう。

 路頭に迷い、盗みを働き、人を殺し、気が付いたらマフィアの構成員になっていた。


 しかも、ジェイコブには悪の才能があったようで、瞬く間にマフィアの中で、上へと上へとのし上がっていったのだ。

 

 そして、自分の出自など気にもしなかったジェイコブだが、ある時ボスからDNA鑑定くらい受けるように言われたところ、アメリカ人の血に日本人の血が混ざっていた事が判明した。

 それは、ジェイコブにとってはどうでもいいことではあった。


 だが、ボスは言った、「ちょうどいいな。日本のヤクザとの仕事があるんだ。お前が行ってこいジェイク」


 全く行きたいとも思わなかったが、ボスの命令は断れない。「はい、ボス」と答えるしか、ジェイコブには道がなかったのだ。


 そして今、ジェイコブは日本へとやって来たのだった。


「ホテルに着きましたよ、ジェイク」


 部下は信頼できる者と、日本語の通訳が出来る奴を連れて来た。


「ああ」


 ヤクザ共との、商談は明日である。

 今日はゆっくり休もう。ジェイコブはそう思い、ホテルの中へと入ろうと思ったのだが、タバコが切れている事を思い出した。


「少し出てくる」


 ジェイコブはそう言って、一人で歩き出した。


「え!ちょっと待ってくださいジェイク。我々も行きますよ」


 部下が急いでジェイコブを追いかけだした。

 しかし、ジェイコブはそれを手で示して止めた。


「いらない」


 ジェイコブは、元より団体行動のようなものは嫌いだった。


「せめて通訳だけでも!」


 タバコ買うだけなら指を差すだけでも買えるだろう。日本円だって持っている。

 通訳よりも、銃を持ち歩けない事の方がよっぽど心配だとジェイコブは思ったのだった。

 と言っても、この平和の日本にそんなものが必要はないわけだが。


「いい。先に部屋へ行っていろ」


 信頼できる部下たちはジェイコブの考えはわかっているし、アンダーボスであるジェイコブの言う事は聞くしかないのだ。

 だから、ジェイコブは一人で歩き出した。


 空港からもそうだったが、歩いていると、日本人たちはジェイコブをジロジロと見てきていた。

 アメリカでは、ジェイコブをジロジロ見る者などいなかった。

 当たり前だ。マフィアにそんな事を好き好んでする奴なんていないのだから。

 ただジロジロと見ていたというだけで、金を巻き上げられたり、果ては命まで奪われることだってあるのだから。


 イエローモンキー共にはそれがわからないのだろう。まさに平和ボケしていると言える。

 こいつらと同じ血が自分に流れているとは、ジェイコブには信じられなかった。

 だが、やはり、そんな事はどうでもいいだろう。

 それが事実だろうが、今のジェイコブには関係ないのだから。


 ふらふらとジェイコブが彷徨っていると、やっとの事でコンビニを見つける。

 そして、ジェイコブはそのコンビニへと急いで向かったのだ。


 だが、次の瞬間にはジェイコブは車に撥ねられていた。

 車に乗っていたのは、アメリカのマフィアと手を組むのに反対していやヤクザの構成員だったが、それをジェイコブが知ることはなかった。


 何故なら、車に撥ねられたジェイコブは即死だったのだから。

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