龍の巫女……なのですか?
「4回勝てば優勝だよ、アーサー」
『ギュアぉん』
従魔との意思疎通。テイマーの腕を示す指標となるやりとりだが、この二人はどう見ても完璧だった。
相対する選手はなんとか従魔達、イノシシやら蛇やらを並べているが……可哀そうなほどに震えている。尚、これは
つまり、相手は――従魔杯に出ようとするくらいには実力はあるが――正直弱かった。
「……アーサー、ちょっと吠えてみて。あっちに」
『ギュア! ぎゃおおおおおおおん!!!』
「ひぃッ!?」
「「「「「「――ッ!!」」」」」」
怯えるテイマーと従魔たち。
「でぃ、ディア選手! 試合開始前に相手を脅さないように!」
「だったらはやく開始してください。……アーサー、食べちゃだめだよ?」
『ギィ? ぎゃおーん?』
首をかしげて見せるサンダードラゴン。先ほどまでの完璧な意思疎通はどこにいった……否。分かっててやってるのだ、このコンビは。
手元が狂って食われたくなければ――と、脅すなと言われたのに脅している。
しかし言葉自体はそれを咎める発言なので、司会もこれを注意できない。
「棄権します……ッ! お、俺の家族を、ドラゴンの餌にはできないッ!」
「しょ、勝者、ディア選手!!」
第一試合。ディアは戦わずして勝利した。
「賢明な判断です。さ、控室に戻ろっか。アーサー」
『ギュアッ!』
と、ディアが玉を向けてカチッとスイッチを押すと、サンダードラゴンに向かって赤い光線が伸びて包み込む。そのまま、小さな玉に吸い込まれるように、サンダードラゴンは姿を消した。
と、ここで司会が恐る恐るディアに声をかける。
「あの、ディア選手。差支えなければ、その玉について教えてくれないだろうか」
「ん? あ、そうですね。試合するはずの時間がまるっと空いてしまっては皆さんもつまらないでしょうし。進行の都合もありますもんね。それくらいは良いですよ」
と、玉を高く掲げて見せるディア。
「これは魔物玉と言いまして、とあるドワーフの王子から借り受けた魔道具です」
「ドワーフ王家の魔道具! なるほど、これでドラゴンを操っていると!」
「え? いえ。これはただ収納するだけの代物ですが」
キョトン、と首をかしげるディアに、司会は目を見開いた。
「え?……では、魔道具の力ではなく、純粋にドラゴンを従えている、と?」
「まぁ、はい。そういうことになりますね」
「ちなみにディア選手は他にどのような魔物を使役しておいでで?」
「いえ、何も。アーサー以外を使役したこともないですね」
司会はそれを聞いて、幼いころからドラゴンと絆を育んだのだろうと推測した。
そして――とある噂を思い出す。
「――龍の巫女……なのですか?」
龍の巫女。それはドラゴンと共に生きた亡国の王族、その中でもドラゴンの真の力を引き出すことのできる姫を指す。
力でしか尊敬を得ることのできないはずのドラゴンも、姫には無条件に
テイマーたちにとって、伝説の存在。司会は思わず敬語でそうなのかを尋ねた。
「……ご想像にお任せします」
「――ッ!!」
そしてディアはニコッと微笑んだ。王族と判断するに相応しい上品な笑み。
司会は見惚れて、言葉を失った。
「では、そろそろ僕は控室に戻るので」
そう言ってディアはしずしずと舞台を下り、控室へと向かっていく。
呆けていた司会はようやく意識を取り戻し、取り繕うように声を上げる。
「こ、これはまさかのダークホース! とんでもない存在が『従魔杯』に殴りこみだぁ!! ディア選手の賭け札を持ってるやつは他の奴らに見つからないよう隠して持つのをおすすめするぞッ!」
第一試合から棄権による不戦勝――にもかかわらず、大会は大盛り上がりを予感させた。
尚、ディアとアーサーがきっかけで次回以降の大会では従魔の種族までエントリーシートに記入してもらうことになったのは、ここだけの話。
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サイン本とかちゃんと売れたらしいよ!)
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