労働性の違い


 私カリーナちゃん! ソラシドーレの蜂蜜をお届けに参上したの!


 カルカッサの商人ギルドで紹介してもらった商店にソラシドーレ産の蜂蜜を卸したところ、大瓶1つが銀貨20枚となった。4つで銀貨80枚だ。

 瓶込みなので1瓶あたり銀貨9枚の儲け。銀貨36枚の儲け!


 なんかすごく行商人っぽい!


 いやー、冒険者としての納品で稼ぐ手もあるけど、やっぱりこうして品物を右から左へ流して稼ぐのはいい。

 なんていうか労働性の違いっていうの? 仕事の内容がね。私が稼いでるっていうの?



 ほら、空間魔法で魔物倒して納品とか、空間魔法に完全依存じゃん?

 空間魔法がなきゃ何も始まらない。むしろ空間魔法が私を使ってる感じ。


 一方こうして品物をやり取りするのは私の成果なわけよ。空間魔法が無くてもいい。

 大変なところを空間魔法で楽してるのは、私が空間魔法を利用してる感じ。



 つまり「『貰い物』の力でイキがるのはちょっと……」ってことかな。

 正直些細な違いだし、結局空間魔法が凄くて便利なのには変わりないんだけどね。



「っと、ここで仕入れて他で売るのには何が良いですかね」

「ははは、そらダンジョンからとれるモンしかねぇな。クロウラーの肉でも他所ではそれなりに売れるぞ」


 蜂蜜を下ろしたついでに情報収集したところ「まぁーそうだよねぇー」って解答がいただけた。むしろカルカッサにはダンジョンしかない。

 逆に言えば、ダンジョンでとれた素材なら結構なんでも売り物になりそうだ。……商人としては、それを買い取って他所で売る感じだろう。



 ……んー、微妙な感じがするぅ!


 あれだよ。魔物素材なんてのは言っちゃなんだが、空間魔法を使えば自分で簡単に獲れる素材だ。

 それをわざわざ買ってよそで売るってのは、なんかこう……慈善事業? 相手が孤児院の子供とかならともかくさぁ。そういうのは他の奴に任せるよ。


「なんか加工品とかない? 加工品」

「となると、痛み止めとかかね。魔物毒を使った薬だから本格的な取り扱いには免許がいるが、2、3本なら自分用ってことで大丈夫だ」


 麻酔か。中毒性がないなら1本くらい持っといてもいいかも知らんね。

 クロウラー肉を無毒化する際に使う水を薬草と煮込むとできるらしい。ほへー。


「ああ。媚薬なんてのもあるぞ」

「ほう。媚薬……それって大丈夫なやつ? 感度3000倍で頭ぱーになったりしない?」

「んなヤバイモンだったら売れねぇだろ。なんだよ感度3000倍って」


 ちがうならいいんだよ。……え、1本でお値段銀貨20枚もすんの? 高っ。

 あ、でもお貴族様なら銀貨50枚出して買う人もいるんだ。へぇ。ヴェーラルドあたりの商人ギルドへ持ち込んでも銀貨30枚にはなる、と。


 ……ハルミカヅチお姉様へのお土産にはちょっと高価すぎて引かれるかなぁ?

 うーん……

 ……いいや! 細かいことは後で考える!

 蜂蜜で儲けたし2本買って1本はお姉様へのお土産だぁ!


「2本買うから少しまけてよ。銀貨30枚」

「ばーろ、そんなに安くできるかよ大赤字だ。銀貨38枚」

「銀貨35枚!」

「他にも何か買ってくなら、銀貨36枚にしてやってもいいぞ」


 おっと、見事に落としどころを見破られていたか。丁度儲け分でキリが良いと思ってたんだよね。


「わかった。そんじゃなんか適当によそで売れそうな加工品を銀貨40枚分買うよ」

「おっしゃ、それならいいぜ。おススメはやっぱりクロウラーの干し肉かな、ダンジョンの1層に出るから大量にとれるんだ。燻製にしたやつは半年は保つぞ」

「お、そういう加工品求めてた」


 というわけで銀貨80枚のショーニン予算は、


  媚薬2本     :銀貨36枚

  ミスリルナイフ  :銀貨13枚

  痛み止め     :銀貨 2枚 (2本分)

  クロウラーの燻製肉:銀貨 5枚分(20枚×6セット)

  弓の弦      :銀貨 5枚分(5本分相当)

  シルクスパイダー布:銀貨15枚分(シャツ2着分相当)

  ――――――――――――――――

  合計       :銀貨76枚


 となり、残金は銀貨4枚になった。

 クロウラーといいシルクスパイダーといい、どうやらここのダンジョンは虫系がでるっぽいなぁ。あとミスリルも採れるらしい。


「いやぁ、良い取引ができたよ。また来るといい、蜂蜜みたいな甘味は大歓迎だ。ここのダンジョンでもハチは出るんだが、蜂蜜はレアでな。なまじ取れる分需要が高い」

「こっちも端数まけてくれたり干し肉1セットくれたりで。やっぱ商人ギルドの紹介はハズレがないね」

「そりゃそうだ。多少ケチってギルドからの紹介が無くなったらかえって損になる。それを分かってたら誠実な取引をするもんさ。……もっとも、商人だから交渉をちゃんとしないと少し割高にはするけどな」


 売り物がある以上、行商人の数は多いほうが良いらしい。目先の小銭ではなく大局的な利益を見ているとは……やるな店主。


 と、そこに別の行商人がやってきた。

 小柄な体で、背負っているリュックの方が大きい程で。


「ちわぁ。お酒卸しに来たよぉ……ん? あれぇ、カリカリじゃーん。久しぶりぃ」

「さ、サティたん!」


 その小さな赤髪褐色合法ロリ、もといドワーフの行商人は、ソラシドーレで出会ったサティたんであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る