ば、バケモンだぁ!(海賊視点)



 甲板デッキを突き破って、突然船の中から現れた女。そいつは確か先日飲み比べで船長を倒した奴だった。何故俺たちの船に? 腕に自信のある魔法使いなのか? しかし戦に備えていた俺達の前に出てくるとはなんて運が悪い――そう思ったのは、最初だけだった。


「うぉらあああ!!――なっ!?」

「おんや、量産品のナマクラかなぁ?」


 剣で切りかかるも、指一本でその刃を押えられ止められる。海の男が全力で振るった剣だぞ、それを指で軽く触れるだけで!? 指の皮も切れない!?


「わ、わ、うわぁああ!! 撃て、撃てッ!」

「はいはい、命中精度の低い豆鉄砲だねぇ。でもまっすぐ飛ばないからむしろ厄介かもしれん。目に入ったらビックリする」


 銃――錬金術で作られた、爆発で金属の弾を飛ばす武器――で女を攻撃するも、平然としている。そもそも、当たったはずの弾が消滅していて傷ひとつ残っていない。

 ニィ、と口端を三日月のようにして笑う女。


 一体、なんだこれは? 俺達は、何を相手にしている!? そもそも甲板デッキを突き破って現れるなんて普通の人間じゃないことは明白だった!



「キミたちぃー、そんなに慌てちゃダメ、だ、ゾ? もっと楽しんでこー?」

「うわぁっ」

「足が滑っ、ふげっ」


 すれ違えば足をひょいとかけられる気軽さで転がされていく。あんな細い足相手に、大の大人がまるで大樹の根に躓いたかのように。


「くそっ、眼前の敵を燃やし尽くせ、フレアカノン!」

「甘い。魔法の筒マジックシリンダー!」


 こちらが放った必殺の攻撃が、左手に吸い取られて、右手から放たれていく。着弾して爆発すれば、仲間が吹っ飛んで船に穴が開いた。ってやべ、燃えてる!


「消火だ、消火しろ! この船で火魔法使うんじゃねぇよ馬鹿!」

「水、水っ」

「おお、大変だ。消火を手伝ってあげようね。はい消えた」


 女が指をパチンと鳴らすと火が消えた。

 ……いったい、どんな魔法使ってんだよ!? 詠唱も無しに!


「おっと、そうそう。エルフの事教えてくれないかなぁ? おーい」

「ば、バケモンだぁ!」

「ひぃいい!!」


 怯えて逃げるヤツが現れた。いや、最初から逃げたりしてたか。




「なにしてやがる! ここは俺の船だぞ!!――てめぇ!?」


 と、そんな逃げた連中の一人が呼んできたのだろう、ゴメス船長が一段高い船橋ブリッジから甲板デッキに顔を出した。

 血走った目で、ゴメス船長が女を睨みつける。


「やぁゴンザレス。いやゴハンデスだっけ?」

「ゴメスだ、間違えんじゃねぇクソがっ!――だが、ここにやってきたのが運の尽きよ」


 べろり、と唇を舐めるゴメス船長。


「ゴーレムを出せ! 戦闘用ゴーレムだ!」

「人間相手にゴーレムを!?」

「あいつは人間じゃねぇ、バケモンだと思え! 船は海神の加護で守る、魔法もジャンジャン使え!」


 海神の加護。ゴメス船長の持つ神器『ポセイドン』の最強防御だ。これがあれば、船と船をぶつけてもこちらは壊れず、岩礁に当たっても船体に穴ができることもない。

 つまりは、航海において絶対安全ということだが、これは甲板でゴーレムが暴れても、魔法をぶっ放しても、船に傷がつくことは一切無いということだ。


「絶対に逃がすな! 俺らの荷の在処ありかを吐かせるんだ!!」

「えー? もとはといえばウチの依頼主の荷物らしいじゃん。返せないねぇ」

「い、依頼主だと!? テメェ、あの船の持ち主に依頼された回収冒険者か!!」


 たまにあるのだ。『賊に奪われた荷を取り返して欲しい』といった依頼が。

 大抵は金で解決する話なのだが、今回はもう荷の引き取り手が決まっている段階だった。そして、なにより荷の持ち主自身がエルフで、いい売り物であったということもあり、一番にさっさと売り払ってしまった。


 しかし、あらかじめ「荷を奪われたら取り返して欲しい」依頼をしていた、ということだろう。そして律儀に働きに来たってわけだ、こいつは。


「倍の報酬を払うぞ! 今寝返るなら許してやる!」

「え、やだよ。お前らじゃ報酬払えると思えないし、交渉に値しないね」


 あっさりとゴメス船長の提案を蹴る女。


「ヘッ、だと思ったよ! だが残念だったなぁ! あのエルフは今頃領主のペットだ!」

「へぇ。そりゃいいことを聞いたよ、ありがとう。まぁそれはあとで助けに行くとしよう」

「馬鹿め、領主に楯突いて無事で済むはずがないだろ! その前に俺らにブッ倒されるんだけどなァ!」

「そうかなぁ? ま、いいや。かかってきなよ。で、話してる間にゴーレムの準備はできた?」


 こちらがゴーレム起動のための時間稼ぎをしていることが分かっていて、話に乗っていたらしい……しかし油断したな。実は、海神の加護は船の備品であるゴーレムにも、そして乗組員である我々にも有効なのだ。


 いくら優秀な魔法使いといえど、海神の加護に守られたゴーレムと戦闘集団に敵うものか! 神器『ポセイドン』がある限り、我々は無敵なのだ!



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(10万字いきましたー! ほめて!)

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