第53話 解き明かしたいもの
コツを理解した後のシャルハート達は実に適切に処理していた。
自然と二人組を作り、迅速に各個撃破。偶然にも遠距離から牽制する係と近距離で止めを刺す事が出来る者同士に分かれていたのが要因である。
「ふぅ……皆、大丈夫かな?」
真っ先にシャルハートが皆の様子を伺うべく、一人ずつ皆の顔を覗き込む。
初の戦闘をする者が少なからずいただろう、ショックを受けた者がいないかどうかの確認は大事な事である。
「う……シャルハートさん、それ男の僕でもやるのかい?」
人類みな平等。リィファスは異性の急な接近に
だが、シャルハートはその辺のことは一切気にしない。何せ元ザーラレイド。元男なのだから。
「え? だって大事なことですよ?」
「う、うん……ごめん」
本人はどう思ってようが、顔が良い美少女シャルハート。
リィファスは正論に反論出来ないまま、話を逸らすために崩れ落ちていくスケルトンへ顔を向ける。
「それにしてもシャルハートさん、良く気づいたね」
「あ、はい。じっと観察してたら何となく分かりましたね。何だか妙な動きが多かったので予想は立てやすかったです」
「随分勘が良いようですね」
剣を収めたアリスが腕を組んでいた。
「貴方はどこで戦いに慣れたんですか? 正直、的確過ぎて怖いぐらいです」
「アリスー顔怖いよ~? シャルハートのお陰でスケルトン全滅出来たんだから良いんじゃない?」
「エルレイは考え無さすぎなのよ! だってシャルハートさん……」
そこでアリスは言葉を区切った。
“おかしい”という言葉が、喉元まで出ていた。しかし、シャルハートの屈託のない笑顔を見ると、そこに追求しようという気が薄れてくる。
「……ごめんなさい。まずはこの事態を潜り抜けられたのはシャルハートさんのお陰だっていうことを忘れてしまっていたわ。先に進みましょう」
ここで追求すれば本当に自分が嫌な奴になる、それぐらいは分かっていたアリスはこのモヤモヤを敵を倒すことで晴らそうと決めた。
「うーん……」
ミラがキョロキョロと辺りを見回し、神妙な表情を浮かべていた。
彼女の全てが気になる少女シャルハートは当然、質問せざるを得ない。
「どうしたのミラ?」
「あ、シャルハートさん……特にそんな大した事じゃない、かな?」
「……言ったほうが、良い。情報はあればあるほど、嬉しい」
サレーナがミラの肩に手を置いた。少なくともサレーナは気になったことはそのままにしておく人間ではなかった。
シャルハートも同様であったので、その勢いを借りてミラの発言を促すと、彼女は意を決して喋った。
「えと、ですね。何かこの迷宮、何だか妙な感じがするというか何というか……」
「『チュリアの迷宮』自身が?」
「はい……何というか、妙な気配を感じると言うか」
確かにミラの言う通りではあった。どこか胸がざわつくような気配はしていた。
『
「私も変な感じはしてるからミラの言いたいことは何となく分かるかな」
「ここからはもっと慎重に進んだ方が良いかもしれませんね」
「何でさアリスー。早くしないと一番乗り出来ないよ~」
猪突猛進という言葉が最も似合う少女エルレイが頬を膨らませ、手をじたばたさせる。
そんな“いつも”の事にアリスは特にリアクションを取ってやらなかった。
このままだとまたアリスとエルレイが戦い始めそうだったので、そろそろシャルハートは仲裁に入ろうとした。
その時だった。
「……」
シャルハートだけには聞こえた。確かに。
どちらかというと『
受け取った“声”をシャルハートは自然と口にしていた。
「……『私の声が届く者よ、来たれ』、か」
少なくとも、これは全員に聞こえているわけではないようだ。無言でシャルハートは辺りを見回す。
いきなり始まったその不可思議な行動に、他の五人はじっと見守ることしか出来なかった。
「シャルハートさん、どうしたの?」
「……ミラの言っている事、やっぱり合ってるかもね。『
シャルハートが今発動した魔法は短い半径ではあるが、全方向に仕掛けられた魔力的要素を探り出すといった内容。あくまで戦闘における補助魔法としての要素が強い物であるが、今のシャルハートの疑問を解消するには十分。
そして、すぐに彼女はソレを見つけることが出来た。
ゆっくりとその場所まで歩いていく。
「シャルハートさん、そこはただの壁だと思うけど……」
通路の壁を睨み付けるシャルハートへ思わずリィファスが声をかけた。
「……いいえ。ただの壁じゃあないです……よっと」
彼女の瞳は逃していなかった。壁の一部分にだけ感じる妙な魔力の流れを。
右手を壁に合わせ、少しばかり魔力を流してやった。
次の瞬間、
「っ……!」
壁から火花が迸る。普通ではありえない現象。その時点でシャルハートは“当たり”を確信する。
アリスが一番に駆け寄った。
「大丈夫ですか、シャルハートさん?」
「うん、大丈夫……。多分何かを守っているんだ。とりあえずテキトーに魔力を流してみたけど、それじゃあ駄目なんだ。これは一定のパターンで魔力を流さなければ開かないタイプの封印」
「封印……? 何を封じているんですか?」
「分からないです。けど、こういうのは解き明かしたいタイプなんですが、構いませんよね?」
気になる事が出来たらその場で解決出来る物は必ずする。これはザーラレイド時代からの癖の一つと言ってもいい。
そして、その状態になったシャルハートを説得できる者は誰もいなかった。
皆に下がるようハンドジェスチャーを飛ばし、彼女は少しだけ本気を出すことにした。
この開かずの扉の向こうに一体何があるのか。シャルハートは自然と口が緩んでいた。
本音を言えば、とてもワクワクしていたのだ。
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