第33話 鮮やかな戦いの後には
「シャルハートさんすっごい! すごかった! かっこいい!」
「いやぁミラにそう言われると頑張った甲斐があるなぁうへへへへ」
ライルとの模擬戦では圧倒的に圧殺したシャルハートであったが、ミラの前ではデレッデレであった。
何の打算も無い人間からの賛辞ほど心地よいものはなかった。転生最高、改めてそう感じるシャルハートである。
ミラが目をキラキラさせていると、周囲がキラキラしているリィファスがやってきた。
「やぁシャルハートさん。模擬戦見ていたよ。あの魔法の腕前は何だい? ウチの近衛騎士にも負けていないよ」
「ありがとうございます! でも、あの精鋭揃いで知られるクレゼリア王国の近衛騎士と比べたらまだまだ足元にも及びません」
「ふふ、じゃあ今はそういうことにしておこうかな」
柔らかな笑みを浮かべながらそう言うリィファスへ、シャルハートは微笑み返した。
“そういう”笑顔は知っていた。一つの出来事に対し、色々と結びつけようとしている人間はだいたいそういう表情を浮かべるのだ。
彼の前ではあまりはしゃげないな、とシャルハートは改めて注意をする。
「それよりもミラとリィファス様はどうでした? 私とライルさんが終わった後、またそれぞれで戦ってたようですが」
「僕はそれなりに武を嗜んでいるからね。遅れは取らなかったよ」
力こぶを見せるようなポーズをして、そう言うリィファス。王子らしからぬその仕草に、シャルハートは少しだけおかしくなってしまった。
「あれ? 何か僕、面白いことでも言えたかい?」
「ええ、リィファス様でもそういうポーズするんですね」
「あっ……しまった子供の頃のクセが出てしまったようだね……恥ずかしいな」
それは冗談ではなかったようで、見る見るうちに顔が真っ赤になっていくリィファス。察するに子供の頃はそこそこやんちゃだったのかとシャルハートは口には出さないが、想像の翼を広げる。
彼はそれ以上話題を続けさせないために、ミラへと話を振った。
するとミラの周りに重い空気が漂い始める。
「なんにも出来ませんでした……」
詳しく話を聞くに、緊張して攻撃魔法が撃てず、ただ逃げ回るだけになっていたという。
入学試験の時に見せた『
「何だかこう、相手を傷つけちゃうかもって考えたら上手く魔法が使えないみたいで……」
「その気持ちは大切にしたほうが良いよ」
「そう、なのかな」
「うん。相手を傷つけなくて済むならそれに越したことは無いと思う。それは最終手段だからね」
「シャルハートさんの言葉には何か説得力があるね。もしかしてそういう経験が?」
「うん、まあ? 無いって言えば嘘になるのかな?」
今のミラの姿と、二十年前を無意識に重ねていたことに気づいたシャルハート。
ミラに向けた言葉は、自分への言葉にもなっていた。
何せ自分はどうしようもなくて、最終手段を取ったのだから。
「……そっか。シャルハートさんにも色々あるみたいだから僕はあえて聞かないことにするよ。それでもシャルハートさんが何か抱えていたら、いつでも相談して欲しい」
「わ、私も! シャルハートさんに相談して欲しい!」
しかし、今の自分はきっとその最終手段を取ることはないだろう。
そういう人達が今は周りにいるのだから。
喜びに浸っていると、グラゼリオが近寄ってきた。
「シャルハートさん、今少しいいでしょうか?」
「はい?」
リィファスとミラがその場を離れようとすると、グラゼリオがそれを止めた。
「次の授業は、魔法陣についての授業なのですが少々教材が多いので、運ぶのを手伝ってもらいたいんです。数は多ければ多いほどいいのですが、いかがでしょうか?」
「私はいいですよ。こういうお手伝い、やってみたかったので!」
「私も、特にやることはないので」
「僕も構いません。喜んで引き受けます」
シャルハートとミラはともかく、王子であるリィファスにも顔色一つ変えずに、お願い出来るのは流石教師と言ったところであろう。
三人の快諾を受け、グラゼリオは職員室へと連れていくため、踵を返した。
すると、ロングコートの裾を踏み、グラゼリオの身体が地面へと吸い込まれていく。
「危ない!」
身体のバランスを崩したグラゼリオを救出するため、シャルハートは水の魔法『
怪我するかどうかの瀬戸際だったので、詠唱無しの即行使。
その判断が幸いし、グラゼリオは傷一つ負うことなく、水のクッションに身体を預けられた。
「……助かりましたシャルハートさん」
「いえいえ、無事で良かったです!」
「それにしても随分と速い『
「えーと……父の熱心な指導の賜物です」
「そうですか、あのガレハド・グリルラーズ卿の訓練ならば間違いなさそうですね」
「父を知っているんですか?」
じっとシャルハートはグラゼリオを見つめる。
グリルラーズ家には表の顔と裏の顔があった。まだミラにも言っていないことである。
シャルハートの言いたいことを察したのか、グラゼリオはこれだけ言って、締めくくった。
「ええ、とはいえ私もそう深くは知っていませんがね」
“言うな”という明確な意志はグラゼリオに伝わったようで、そこからは二度と話題にすることはなかった。
そのうちミラにも言わなければならないな、とシャルハートは今後のことを考えていると、遠くから声がした。
「あー! シャルハートだ!」
「あれ……貴方は、エルレイさん?」
勇者ディノラスの娘であるエルレイが、手をブンブンと振り、こちらへ走り寄ってきた。
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