第47話 私の自宅裸族レベルはカンストしました

「今は気持ちが一杯だから」

「いっぱい?」

「だから抑えられる自信がない」

「うん?」


 分かっていないな、とレイオンが溜息まじりに囁く。

 私の両手をそっと包み、そのまま引き寄せられ、屈んだ彼が近づいた。


「レイオん」


 あっさり奪われる。

 音を立ててゆっくり離され、すぐにまた触れられる距離で熱い吐息がかかった。


「こうしたい、という事だ」

「ひえ」


 変な声出た。

 今日は特に彼の瞳の温度が違う。


「勿論、これ以上も」

「これ以上?」

「……君と夫婦として初夜を迎えたいという事だ」

「っ!」


 一気に熱が這い上がった。なにもこんな急に暴露しなくてもいいじゃない。

 レイオンは夫婦としての初夜と言った。

 本来彼と結婚したその日の夜に迎えるはずだったけど、彼が私の条件を忠実に履行したから今までなにもなかった。添い寝初期に初夜目当てと考えたこともあったけど、というかさっきそれ思い出していたけど、もしかしてレイオンはずっと考えていたの?


「前から?」

「……たまに」


 そういえば目の毒どうこう言ってた時があった気がする。それ以前に初めてケモ耳見た時、発情期以前に添い寝時は我慢できるとまで言ってた。というか今さっきも我慢できなくなると唸っていた。

 失念していたけど、この一年レイオンはずっと我慢しながら添い寝していたことになる。

 そんな私の思考を読んでか、気持ちを自覚するまでは全く問題なかったと静かに伝えられた。 


「普段はいい。メーラと一緒にいるだけで良く眠れるから」

「我慢してたの?」

「稀に耐え難い時があったぐらいだ」


 数える程だったとしても、それはつまり今後純粋な裸族はできないってこと? 裸族に色恋はないもの。そこに交える時点で無粋というか、いや今はそこを言及する時じゃない。


「君の気持ちはきちんと待つが、頼むから試すような事はしないでくれ」

「試すなんて……」

「分かっている」


 そんなつもりはなかった。私の主張を彼は重々に理解していて、頭を撫でながら君のせいではないと慰めまでしてくれる。

 忘れていたのがいけない。

 今のレイオンは私への気持ちを明確にしている。

 だからこそ私の一言によって大きく動揺すると眉を八の字にして笑った。


「私、なにも考えてなかった」

「メーラは何も悪くない」

「裸族としてどうレベルアップするかしか考えてなくて」


 睡眠の為にも添い寝は続けたい。レイオンが言ってたようによく眠れるのは事実だろうから、私が滅多なことを言わない限りは問題ないのだろう。

 まあその問題発言がどういうものなのか私が分かっていないのが致命的だけど。

 完全裸族を諦める? いつしか叶うようなことを言っていたけど現状は難しい。けど諦めたくなかった。

 これだけ彼が話してくれたけど、最後でいいからやらせてほしい。


「レイオン、試したいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「向こうむいてて」

「?」


 視界に入らずやるしかなかった。


「メーラ?」


 音で分かってしまうかな。察したのか少し声が上擦ってる。


「もう少し待ってて」

「着替えるなら席を外すが」

「大丈夫」


 彼の背を目の前に完全裸族になってみた。

 うむ、いけるな。私の自宅裸族レベルはカンストしました、みたいな。


「メーラ?」


 レイオンが焦り始めたので、いつものパジャマに着替える。いいよと声をかけるとすごい警戒しながらゆっくりこちらに身体を向けた。そこまで気を張られてもな。さっきの話があるから全裸を披露するつもりはない。


「眠かったか?」

「ううん」


 まだそわそわしてるけど、今日はこのまま、燻製を目の前にして時間に解決してもらえば、いつも通り添い寝ができるはずだ。

 ん? 燻製……ああ、いけない。


「レイオン」

「どうした?」

「お酒が……」


 どうせ全部脱ぐなら飲んじゃってもいいかと思って上等なお酒を用意してたんだった。

 お酒以外も用意してるけど、記念日だから飲む気満々だったと主張してみる。


「酒を飲んだら脱ぐだろう」

「元々完全な全裸でいく予定だったから、いいかなって」

「……駄目だ」

「カーディガン頑張って羽織るから」


 前と同じように真っ裸にカーディガン羽織るだけ。

 一応着てるし許されないだろうか。彼の気持ちを聞いてしまった手前、主張はしづらいがワンチャン狙ってお願いしてみる。

 けど彼は渋い顔をするだけだった。


「あれは心臓に悪い」

「そう……」


 うつむいて軽く手を口にあて小さくなにかを言い始めた。

 あの頃は自覚もなかったし、興味とただ守りたいだけだったから、そこまで求めてなかったし、背中が綺麗すぎたのが悪いと独り言をひたすら続けている。

 無表情の中に追い詰められてるような気配が見えた。珍しいかもしれない。


「ならお酒はレイオンが飲んで」

「いや、とっておく」

「もったいないよ」

「いいんだ。君と飲める時の為に取っておきたい」


 飲んだら全部脱ぐのに? レイオンと一緒に飲みたかったお酒だから、そう言ってもらえると嬉しいので、そのまま彼の提案を受け入れた。


「まあ来年まで寝かせててもいっか」

「来年?」

「うん、来年」


 今日は燻製片手にノンアルコールで楽しむだけになったけど、それもいい思い出になるだろう。

 裸族談義で少しお疲れ感があったレイオンも今はちょっと機嫌よさそうだし。


「これからは毎年ワインを寝かせようか」

「どうして?」

「来年の君と約束出来る」


 それが一番の贈り物だと笑った。

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