第46話 私がプレゼントです
「…………は?」
見て分かるぐらいポカンとしていた。
まあ最近ちょっとマンネリだったし、考えもしてなかったと思うけど、そろそろ完全裸族がいけるはずだ。
「今まで私は聖女様ブランドパジャマで、レイオンは下履いてたでしょ? それも脱いで過ごすの」
「……え?」
「裸族先輩として今日は後輩の完全自宅裸族をお祝いする日にすれば、裸族として最高の誕生日プレゼントになると思って!」
最近色々ありすぎてすっかり忘れていたけど、私は他人の前裸族を、彼は自宅裸族を、それぞれ磨くのを失念していた。
日々裸で過ごすことを目指すなら、さらに一歩進まないとって思うし、先輩として導くのが私の役目だ。今なら私も聖女様ブランドパジャマを脱いで完全な裸のままレイオンとベッドで寝られる気がする。
「……全部、脱ぐ?」
「そう!」
その後、暫し無言の時が流れる。
期待に落ち着きなく返事を待つ。無表情のままかたまるレイオンは、ポットを取らずによろめいてどかっとソファに腰を沈ませた。珍しい所作だ。
「レイオン?」
「……」
顔を片手で覆って大きな息を吐く。少し唸っているようにも見えた。
「えっと?」
「何を言うかと思えば」
ここは先輩として、君ならできる君ならやれると励ます時かな?
というかとっくにそのレベルに達しているけど、一歩踏み出すにはどうしたらいいか分からないってラインに立っていると思う。
顔を覆ったままぐぐっと唸る。最終形態である真っ裸は躊躇いがあるのだろうか。今までの言葉を考えると私よりできそうな気配があったけど。
「今は駄目だ」
「レイオンならできるかなって」
「我慢出来なくなる」
「うん?」
長い溜め息を吐かれる。
すっかり習慣化してしまった手前、急に変化を与えるのは厳しいのだろうか。
最初こそ初夜を求められたのではと勘違いしていたけど、こうして一緒に寝て裸族が習慣化したから分かる。
私と彼との間には裸族という純粋な信頼関係があるって。
「今日はいい」
「え、そんな。折角の誕生日なのに」
「いいんだ」
声に揺らぎがないから近い内には完璧な裸族時間を過ごすってことなのだろう。今日は突然で驚いただろうし、やっぱり心の準備が必要になってくるかな。
折角だから記念日にやりたかったけど、本日の主役の意見を尊重しないと良い思い出にならないし諦めるしかなさそうだ。
「じゃあいつも通り?」
「ああ」
今日一番のプレゼントだったけど断念となって少ししょんぼりする。
裸族レベルのステップアップは先かあ。最後のプレゼントが不発になってしまった。
今からなにかプレゼントできるものも考えても出てこない。
「ゾーイの言う通り、私がプレゼントですってのをやればよかったかな?」
「……はい?」
「リボンをつけて私がプレゼントですって言うやつ」
「待って」
レイオンにしては珍しく頬から耳まで赤くなった。
その後小説では、甘い夜を過ごしましたまる、で終わりだった。つまり大成功だ。男性には喜ばれる台詞らしいのは読んでて充分分かった。
意味を分かっているのか? とレイオンが自問自答して、私が応える間もなく、分かっていないなと一人回答に辿り着く。今日は初めて見るような姿ばかりで新鮮だわ。
「私の誕生日に沢山もらったから、その分返したくて」
「気持ちだけで充分だし、君から貰えるならどんなものでも嬉しい」
だから悩んだんだって。
男性が喜ぶ台詞の一つや二つ言えないと満足してもらえない気がする。
「なら私をプレゼントっていうのも?」
「……そこからは離れて」
小説と現実はやっぱり違うか。残念。
なにかを与えられないなら私自身を~なんてロマンス小説も粋なことをするなと思った。格好いいと思うし、相手になにかしたいという気持ちを表すには分かりやすい。
小説の内容を思い出しながら頷いていると、レイオンがトーン低めに私の名前を呼んだ。
「そういう事を言うのは私だけにしてほしい」
「もちろん」
レイオンだからそう言える。他の人になんか言えるわけがない。誕生日を盛大に祝おうって思えたのだってレイオンだけだ。だからきちんとレイオンだけしか言う気もないし、こんなに祝おうと思えないと伝えた。
私の言葉を受けて、顔から赤みが消えたいつも通りの無表情で彼ははっきり応える。
「嫌ではないしメーラの気持ちはとても嬉しいが、そう簡単に言われると戸惑う」
「そっか」
嬉しいならいいのかな?
あからさまに喜んでもらうのは難しいだろう。これでもかなり分かりやすい反応をするようになった。それが自分だけかもと思うと特別な感じがしてむず痒くなったのは私だけの秘密だ。
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