第27話 おっきなもふもふ(前作キャラ出演)
「レイオンは?」
「お待ち頂くようにと伺っております」
朝食を頂きエピシミア辺境伯夫妻にご挨拶をして帰るぞというところでレイオンが席を立った。
私は待機なので借りている部屋でのんびりお茶を頂いている。そこまで急いで出る必要はないけど少し気になった。
「いないなら、お城を少し見学しようかな」
「奥様、旦那様が待つようにと」
「ちょっとだけだから」
熱心にお願いすると私に甘いゾーイは許してくれる。
城といっても連れ立って歩けば問題ないし、魔物も友好的だし怪しい人間が攻めてくるわけでもない。さすがエピシミア辺境伯夫妻の住まいだ。
「あ、レイオン」
目的の人物を見つけたのは、かつて城の見張り塔と呼ばれていた屋外の開けた場所だった。
城内にゾーイを待たせて、レイオンに近づく。どうやら誰かと話をしているようだった。
「成程。昨日の夜は奥方の介抱をしていたのか」
「ご挨拶が遅れ申し訳ありません」
「構わんさ。むしろ喜ばしい限りだな」
「ふお」
彼の話し相手が視界に入って、感動に変な声が出る。
いやだってもう生で会えるなんて想像してなかったし、叶うとも思っていなかった。
「おや」
「どうかしましたか」
「なに、君の奥方は可愛いなと」
「え?」
振り返ったレイオンと目が合った。少しだけ眦を上げる。
「メーラ、待つようにと」
「ごめんなさい、気になって」
「いいじゃないか」
私も挨拶をしたかったとレイオンの話し相手、フェンリルが私を呼んだ。
レイオンの隣に立って、挨拶を交わす。
「お会いできるなんて光栄です」
「そうか」
おっきなもふもふ。
お喋りもできるもふもふ。
触りたいなあ。
「フォーを大きくしたみたい」
「フォー?」
瞳が私の顔より大きいフェンリルはフォーをそのまま大きくしたような見た目だった。
目の色は全然違うけど、銀色がかった灰色の毛並みはフォーと一緒だ。
「フォティアって犬をディアフォティーゾ家で飼っているんです」
「犬? 飼う?」
首を傾げたフェンリルが私をじっと見つめた。フォーの瞳はくすんだ緑だけど、フェンリルは金色で鮮烈な印象を与える。
「成程」
「……見たのですか」
レイオンがトーンを低めにフェンリルに問う。必要な部分だけだとフェンリルが笑った。
いいなあ、フォーとこんな風にお話ししたい。
「お前、話していないのか」
「……」
「なんの話ですか?」
「いや、気にしなくていい」
内緒話か。ディアフォティーゾ家にとって生きる御先祖様だから積もる話もあるんだろうけど、ちょっと仲間外れな感じがしてもやもやする。
「早い内が良いぞ」
後回しにしても碌な事にならないとフェンリルが苦笑する。
分かっていますと視線を下げがちにレイオンが応えた。
「レイオン?」
「ああ、大丈夫だ」
行こうと言って私の手を取る。
「まだ話があるんじゃ?」
「いいんだ」
「そうだな。また国境線で会うさ」
なんだか邪魔した感じになった。レイオンは待つよう言ったのだから、私が一緒に聞くのもってことか。
「あ、ちょっと待ってて」
「ああ」
レイオンを置いて、フェンリルに近づく。
聞こえないよう小さな声で耳打ちした。
「あの、失礼を承知で伺いたいのですが」
「話してごらん」
「フェンリルの血が入るからって満月の日におかしくなる病気なんてあるんですか?」
「ということは、君は治るものだと考えているのか」
「はい。良く寝てよく食べれば」
フェンリルは私の顔より大きな瞳をさらに大きくして豪快に笑った。
大きすぎるから、声がお腹に響く。これがフェンリル。やっぱり色々規格外ですごい。
「まあそうだな。あれだけ強く出ているのはレイオンだけだ」
「え?」
「少なからず影響はあるが、無差別になる程のものではない」
「やっぱり」
「君の考える通りを実践して治ったら、そうだな……満月の日だけ甘やかしが強くなるといったところに落ち着くかな」
甘やかしが強くなる? どんな感じだろ。
考える私に答えをくれずに、フェンリルは楽しそうに目を細めるだけだった。
「メーラ」
「はい」
お、名前で呼んでくれた。フォーと会話できれば、こんな風に呼んでもらえるのかな。
「ディアフォティーゾ家の男性は代々表情に乏しい傾向にあるが、僅かにきちんと変化している」
「はあ」
「それを見逃さず、良き理解者であってほしい」
「はい、それは勿論」
なにせ裸族デビューを果たした彼を理解できるのは先輩裸族の私だけだもの。
「ふむ、まだまだかな」
「どういうことですか?」
「いや、私の楽しみが増えただけさ」
あまり長いと迎えに戻ってくるぞと言われ、レイオンを見やるとじっとこちらを窺っていた。気になるのね。まあ私もさっきの内緒話気になったし。
「また会えますか?」
「勿論。次は良い報告を期待している」
「ええ、完治の知らせを楽しみにしてて下さい」
それではないがとフェンリルは笑っていた。
別れの挨拶を済ませ、レイオンの元に戻るとフェンリルとの話については何も聞いてこなかった。
かわりに違う方向から一つ。
「メーラはフェンリルが怖くないのか?」
「怖くないよ。フォーを大きくして、しかも話せるだけでしょ?」
怖がる要素ないし。
「いや、いいんだ」
レイオンの横顔を覗くと少し嬉しそうに見えた。彼にとっては御先祖様であり家族なのだから、良く言ってくれると嬉しいのは当然なのかも。
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