第25話 早く脱がして!(前作キャラ出演)
「お酒?」
「ああ、和酒かしら。東の大陸の先にある島国原産で」
「そう、なんですか」
結構強いお酒だった。ますますまずい。
身体が熱くなるのと同時、ふわっふわの浮いた感覚がやってくる。
二杯でこんなになるなんて……さっきの水みたいなお酒強すぎたんじゃないの。
「あ、すご……」
「え、大丈夫?」
「ふわあ」
ふらついて後ろに重心が及ぶ。とんと誰かにぶつかると同時に両肩に大きな手が添えられた。
「メーラ」
「だんなさま?」
覗き込んでくるレイオンの眉間に皺が寄っていた。珍しい。
ああでも今はそれどころじゃないの。熱いし窮屈だし、脱ぎたくなってくる。お酒美味しいんだけどなあ。飲むとすぐ脱ぎたくなる。うん、脱ぎたい。
「飲んだのか」
「たいへんおいしかったです」
もしやお酒が飲めなかったのかと聖女様が慌てるから飲めますよと軽く返す。レイオンが小さく溜め息を吐いた。
「飲めますが弱いようでして」
「それは失礼を」
「聖じ、エピシミア辺境伯夫人は悪くないです!」
熱い身体がますます熱くなった。やっぱり社交界用のドレスは窮屈だな。脱ぎたい、とてつもなく脱ぎたい。
というかそもそもなんで私服着てるの? 着る必要ないよね?
「レイオン」
ふわふわの感覚のまま、レイオンを見上げると心配そうな顔が見えた。あれ、さっきから無表情じゃない。幻覚?
彼は私の呼び掛けに応じて屈んで顔を寄せる。耳元に手をあてて囁いた。
「脱ぎたい」
「!」
肩に添える手に力が入る。
もう我慢できなくて、あいた胸元に手を掛けようとした時、ふわっふわの感覚とは別の浮遊感を感じた。
膝裏と背中に腕が回され横抱きになっている。
お姫様抱っこ? ここで?
「え?」
「申し訳ありませんが、妻の酔いを醒ましたいので、こちらで退出させて頂ければと存じます」
レイオンに抱き上げられてると視界が高い。この人普段こんないい眺めで過ごしているのね。
と、後ろから声をかけられた。さっきまでレイオンと話していた城の主だ。
「ディアフォティーゾ辺境伯、いかがされた?」
「閣下、妻に少々休みを頂きたく」
「ああ、それなら用意した客間を。今日はもう休んだ方が良いだろう」
「有難う御座います」
「戻らなくていい。また別の機会にでもゆっくり時間をとろう」
「ええ」
「ほら、奥方を休ませてあげなさい」
山越えは疲れも出るだろうから、と王子殿下もといエピシミア辺境伯は微笑んだ。
何気なく聖女様の隣に立ち、腰に腕を回して抱き締めていた。顔というか全身から聖女様を好きって言っている。見つめあって笑い合う姿が輝いてて、早くこの瞬間を新しい自伝で出してと思った。
閣下はすごく聖女様のこと好き。見ていてよく分かる。いいなあ。好きが駄々洩れてるから分かりやすい。
「失礼致します」
そのまま会場を後にして、足早に一晩お世話になる客間に入った。奥の部屋へ進んで、大きなベッドにおろされる。
連れてきた侍女侍従を下がらせて二人きり、レイオン手ずから水を用意し渡されるも、その手は離れなかった。
「水を飲んで」
「一人で飲めるよ」
「駄目だ」
彼の手が添えられたまま水をあおる。喉を通る冷たい感覚が気持ちいい。
「落ち着いたか?」
黙って頷く。でも少しだけだ。足りない。息苦しさから解放されたかった。
「レイオン」
「どうした」
彼に背を向け顔だけ後ろを向いて訴えた。
「脱ぎたいから、手伝って」
水差しやコップをよけて片付けているレイオンの動きが止まった。
「レイオン?」
社交界用のドレスはゾーイがいないと着れないし脱げない。普段遠乗りや屋敷で使う簡易で脱ぎやすいものとは訳が違う。そも屋敷で使う服は脱ぎやすいようオーダーメイドしてるから、仕様が違いすぎるのだけど。
「レイオン、お願い」
「私が?」
「一人じゃ無理」
首だけ後ろを振り向いて訴えると、見間違いかレイオンの頬が赤くなっている。
君の後姿は毒だと言われた。
なんで? 私は人間なので毒を出せる能力はないし、裸族がバレた日に私の裸な後姿を見てるじゃない。
「レイオン、私の裸見たことある」
「それがまだ頭から離れないから余計に毒だと」
「なんでもいいから!」
脱ぎたいと叫ぶと、面白いぐらい驚いて震える。
レイオンでも動揺するのね。
「脱ぎたい! 早く脱がして!」
「……分かった」
唸りながら私の背に触れる指先がとても熱かった。
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