第15話 親交深める
祖母の安否が確認できた。これだけでもう充分。
「君が来なかった事を正しい判断だと仰っていた」
「はは、そうですか」
変わらないし、そう言えるってことは大事ではなかったのね。
でも、やっぱり会えないのは淋しいかな。
「何故戻れないか教えてもらえないか」
「……ごめんなさい」
私が貴方を愛して、愛されることです、なんて言えなかった。
誠実だと祖母が話していたのは事実だったと分かるし、彼が歩み寄ろうとしてくれてるのも分かる。
けど今祖母の条件を伝えたら、真面目なレイオンは私を愛そうとするだろう。でもその感情は強制していいものじゃない。
「ペズギア様との約束は果たせそうか」
「分かりません」
「なら今後ペズギア様に会えない可能性もあると?」
「場合によってはそうでしょうね」
いいのか、と静かに問われる。
いいわけない。次倒れたら約束を破ってでも実家に飛び込みたい。
それでも祖母との約束を果たしてからと思うのは意地だった。いつまで経っても子供のようだと自分でも思う。
「……分かった」
何を納得したのかは分からないけど、レイオンが侍女を呼ぼうと立ち上がった。
ゾーイと入れ替わりで彼は自室へ戻っていく。
そしてゾーイに泣きつかれ、レイオンのことを事細かに伝えてくれた。
「そう……聞いた通りね」
「奥様を横抱きにしてお戻りになった時は不謹慎ながら王子と姫みたいな感じで最高でした!」
「横抱き?」
「ええ!」
それは俗にいう、というか聖女様辞典でいう、お姫様抱っこというやつね。
鍛えている彼からすれば、私の身体は軽いのだろうか。
あ、フォーのこと聞いておけばよかった。レイオンが私を探し出せたのはきっとフォーのおかげのはず。フォーには今度会う時においしいご飯持ってってあげよう。
「奥様の面倒をみると仰ってたのも格好よかったのですよ? 当主自らお世話なんて普通ならありえません。奥様のこと大切になさってるんですね。本当良い
「あ、うん」
この屋敷の当主様は裸族入門しましたなんて言えないし、適当に相槌打つしかないな。
ひとしきり彼のことを話したゾーイは感無量といった様子で悦に浸っている。レイオンがどうやって私を助けてくれて、裸族デビューに至った経緯は詳しく知れてよかった。
お茶を淹れてもらい、少し困った顔をしてゾーイは祖母の話をし始める。レイオンの話を努めて明るく話していたのはこのためか。
「疲れが出た事と冬の寒さが原因だと聞きました。騒ぐ程のものじゃないと仰っていたそうですよ」
「そっか……よかった」
「ええ!」
決して今度は行ったらという言葉はない。ゾーイは祖母が私に言った条件までは知らなくても、どういう関係であったかは理解している。早々素直になれない頑固者同士ってことも分かっているから、この言葉以降、祖母について語ることはなかった。
「奥様、朝餉の準備は出来てますが、いかがなさいますか?」
「ん、行くわ」
昨日の今日だから部屋にすべきかと気にしてくれている。そういえばさっきレイオンも同じことを言っていた。身体は全く問題ないので、いつも通りを選ぶ。
階下に降りて玄関前に到着すると、さっきまで目の前で朝ちゅんをやらかした張本人が、侍従に外套を用意させていた。
「レイオン」
「ああ、歩いても?」
「大丈夫ですって」
本当心配性だな。
「レイオン、朝食は?」
「必要ない」
「旦那様、食べた方がいいと思いますよー」
年の近い侍従が随分気さくに話しかけているけど、当の本人は咎めることもなかった。関係がきちんとできている上の話し方ね。
「いやいい」
「そんな!」
この人、食事とらずに出ていく気なの。
バトレルやさっきの年の近い侍従ヴォイソス、侍女筆頭で旦那様付きのヴォイフィアが心配そうに彼の様子を見、その後助けを求めるように私に視線を送る。
本当、レイオン以外は素直すぎて何を訴えたいのか大体分かってしまうわ。
「レイオン」
こちらに視線だけ寄越した。
「一緒に朝食はいかがですか?」
「一緒に?」
「はい」
こちらに身体を向ける。
彼の背後にいる家令三人がぱっと表情を明るくさせた。侍女のヴォイフィアなんて満面の笑顔で両手を胸に寄せているし、侍従のヴォイソスは両拳をぐっと握っている。
どうやら朝食への誘いは正解だったらしい。
「条件とかなしで。親交深めるためにも、ご飯を一緒にどうかなと」
「……いいのか?」
「レイオンは大丈夫ですから」
言葉に詰まったレイオンを見つめ返事を待つ。
後ろ三人が落ち着きなく自身の主人の動向を見守っていた。
「……では、御言葉に甘えて」
「ありがとうございます」
後ろ三人が謝辞を述べてるように無言で喜ぶ。
二人並んで朝食のために部屋へ進んだ。
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