第5話 繰り返しの世界で
持ち場に戻るさなか、ノアは一人思う。
こうなることは薄々分かっていた、と。
誰も信じてくれないだろうが、ノアはこの世界、否。ノア・ベルガーという人生を何度も何度も何度も気が狂う程にやり直している。
まだ、100やそこらだと信じたい。だが、毎回愛する人――ロザリーが死ぬと7歳の春、つまりロザリーとあった日に戻る。
いや、その日になると前のことを思い出すのかもしれない。
見送るのはノアで、彼女を見送った言は1度もない。
そして、原因は全てオルメタの王太子に取り入った女狐――メイリリーとかいう男爵令嬢である。
否、ノアはそう考えている。
あの女が、王太子と同じ王立学院に入った日から全てが狂い初めていた。
政略結婚とはいえ、大陸の大半を占めている帝国の皇女との婚約はオルメタとしては渡りに船であり、国益のために王太子も納得していたはずだった。
けれど、あの女が王太子にまとわりつく様になってから様子は一変、皇女を毛嫌いする様になっていった。
『ノア様ぁ〜初めましてぇ。わたし、メイリリーって言うんですぅ』
何度も繰り返した世界で変わらないのが初めて会った時の挨拶だ。
毎回甘ったるい声で、擦り寄ってくる。ノアの好みは白銀の髪で、凛とした雰囲気があり男勝り。つまり、ロザリーであるからノアの心は一切揺れ動かない。
素っ気なくしていても、「クールなノア様ステキ…」などと言ってくるのだ。訳が分からない。
ノアとしては、王太子に何とかして欲しいものの、今まで一度も取りなしてもらった記憶は無い。
――本当にどうすればいいんだ。
思考が回らない。繰り返しを終えるためにはどうしたら……。
「おう、ノア。団長からの呼び出しってなんだったんだ?」
思考がぐちゃぐちゃになっていく最中、同僚からノアは声をかけられる。ニコニコと笑う彼の様子に、まだ皇女のプレゼントの件は広まって居ないのだとほっとした。
「隣国との会談に名指しで呼ばれたらしい。それでほぼ強制のところ一応形だけ承諾させようって話だった」
「流石、帝国一二を争う実力を持つ騎士だな。王太子サマからか?」
「いや、その妾?というか囲っている女からの名指しらしい」
「うわぁ、まじか。王太子を引っ掛けておいてノアにも粉かけしようとしてるのか」
「あの、男爵令嬢のせいでオルメタはめちゃくちゃなんだろ」
ノアは、考え込むように聞く。
「らしいな。ヤツが王太子の周りの男を籠絡したせいで婚約破棄が横行したらしい。オルメタの未来宰相候補なんか親に勘当されたらしいしな」
「なのに、あちらの王は止めないのか?」
「そりゃあそうだろ。ここで人民の心を掴めなきゃ王に向いていないってことで第二王子に継承権が渡るだけだから」
「だが、学園はてんやわんやしていると聞いたが?」
「そりゃ、あの女狐…えっとメイリリーだっけか?が、引っ掻き回しまくった訳だからそりゃてんやわんやにもなるだろ」
「でも、そんな女狐からアプローチが来るなんて、ノアも隅におけねぇなぁ」
「俺には、ロザリーがいるから関係ない」
「そうかそうかお前には白薔薇がいるからなぁ」
ニヤついた顔で同僚は言った。
「そうだが、何か問題でもあるのか?」
「認めるのかよ。騎士団内でも一途で通ってる騎士様は違うな」
肩を竦めて彼は言った。
ノアが騎士団に所属し、功績を上げ始めた辺りから縁談は大量に来た。否、来ていた。
しかし、ノアが全ての縁談を断り理由に「想い人がいるから」と言い続ける内に一途だとか言われだしたのだ。
隠そうともしていないので、想い人が誰なのかも非常に分かりやすい。
「用は、それだけか?」
「だな、俺は今から休憩だがノア、お前は?」
「これから持ち場に戻る」
ひらひらと手を振る同僚に声を掛け、ノアは歩き出す。
きっと、この終わりなき輪廻に今回こそ終止符を打とうと願って。
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