第4話ことの始まり
「これが、入っていた、と」
目の前の老年の騎士は、ノアに言った。
「はい」
二人が囲む机にあるのは、ただの赤い宝飾具だ。否、ここ二三年で毒性が確認され身に付ける事が出来なくなった宝石を用いたもの、と言った方が良いだろう。
「ノア、お前はどうして、これに気づけたんだ」
老年の騎士はノアに問うた。
「近頃隣国の王太子が不穏な動きをしているという話を聞いたから、ですかね」
納得しているようなしていないような表情でノアは見つめられる。
「とは言っても、団長もこの時期の贈り物は怪しいと思いませんか」
「まぁな、贈り物と言えば誕生日の時くらいだったあの王太子サマから今の時期に贈られてきたもの、と聞いたらきな臭い」
団長と、呼ばれた老年の男は真っ白になった髪をガシガシとかきながら言う。
「俺だけでなく、他の奴らも怪しがってましたよ」
暗に、自分だけでないと言う意味も込めてノアは告げる。
「わーってるよそんなこと」
ガクン、と騎士団長は項垂れる。皇女に贈られた宝石は見た目だけでは毒性有り、とは気づけない。
ある溶液に浸すと宝石は真っ黒に変化する。それが贈られた宝石、ルベウスのたったひとつの見分け方だ。
故に、ノアは軽くカマ掛けをした。自分の秘密が、自分が怪しまれていないかを。
だが、バレていないようでホッとする。ノアの持つ秘密は何故と問われても答えられない不可思議なものだから。
「なら、なぜ俺は呼び出されたのでしょうか?」
一呼吸置いて、いぶかしげな表情でノアは問うた。
「あちらさんが、今度行く時にお前を連れてこいと名指しで言ってきやがった」
「あちらさん、とは」
「オルメタ、だよ。ったくお前を名指しとか訳分からん。俺や、副団長を任せているアイツならまだしも」
やはり、何も変わってはいないらしい。何度も通った道であり、答えはひとつだ。ノアは目の前の男をじっと見つめ、告げた。
「……そうですか。行きますよ、ヘルムート団長。それはいつ行けばいいんですか」
「本当か!?」
ヘルムートはあからさまに嬉しそうな顔をする。どうやら目下の問題はどうやってノアを連れていくかだったらしい。
「断ったところで意地でも説得する気がしましたので」
「元々お前に頼もうと思ってたんだ。何せ、うちの連中は血の気の多いやつが多くてな…。皇女サマに何か言おうものなら斬りかかりそうでな。その点、お前なら俺も安心なんだ」
「買いかぶりすぎですよ」
ヘルムートから信頼されている事実にノアは嬉しくなる。
帝国一の騎士であり、若くから団長の地位を任せられている男に言われるのだ。そりゃ、嬉しくもなる。と、ノアは思う。
「時期は、2ヶ月後だそうだ。それまでに準備をしておいてくれ」
「分かりました」
「おう、持ち場に戻っていいぞ」
「では、失礼します」
一礼した後、ノアは扉に手をかけ、執務室から出る。
これから起こるであろう重大な出来事に思いをはせながら。
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