第2話 『魔導士』、追放される
「―なあ、話ってなんだよ?」
半年程前。
そう言って、『魔導士(キャスター)』の男―クラディスはパーティの仲間の一人を呼び止めた。
周囲は薄暗く、何が潜んでいるか分からない淀んだ空気を放っている。
高難度ダンジョン『ヴィステリア』。
数々の冒険者が報酬や夢の為に挑戦している代表的なダンジョンの一つだ。
そこに住むモンスター達は他のダンジョンとは比べ物にならない程に凶暴かつ獰猛で、その強さは桁違いだった。
そんないかにも危険なダンジョンでクラディスに声を掛けられた『剣士(ソルジャー)』の男―マルドは疲れたような声を返してくる。
「……面倒だから単刀直入に言わせてもらうけど、お前が居るとSランクになれないんだ。役に立たない魔導士は俺達には要らない。悪いが、他をあたってくれ」
万年Aランク止まりのパーティ『ガーンズル』……彼らはその仲間だった。
そして、そのリーダーであるマルドからそう告げられ、クラディスは驚いたように声を上げた。
「おいおい……冗談だろ? ついさっきもお前を援護して、そのおかげでこんな奥深くまで来れたんだ。まさか、これを全部自分のおかげだなんて言うつもりか?」
「……今日、わざわざ他の奴らを連れて来なかった理由が分かるか? お前の実力を見る為だよ。けど、これで分かった。お前の魔法なんて、ただ光ったりちょっと火が出せる程度だし、ただ派手なだけでモンスターにはなんの意味もない。結局は俺がとどめを刺してやってるからやれて来れたんだ」
「待てよ、俺はお前が戦いやすいように支援していただけで―」
「もう良いって」
「だから―」
クラディスがそこまで言い掛けた時だった。
そんな彼の言葉に、マルドは手にしていた剣を向けてきたのだ。
突然、剣が向けられたクラディスは動揺を悟られないようにしつつ、マルドへと声を返した。
「……おい、マルド。……これは何のつもりだ?」
「どうもこうもない。これ以上、お前と話す事は無いって意思表示だ。『魔導士(キャスター)』の癖に、他のパーティの奴と違って全然成果を上げられてない……そんな奴と一緒に居るから俺達はSランクに上がれず、万年Aランクだった。だから、今日をもってお前を『ガーンズル』から追放させてもらう」
「噓だろ……」
そうして、絶望的な声を上げるクラディスを見たマルドだったが、あからさまなため息を吐いた後、ゆっくりとクラディスの方へと歩き出してくる。
「お、おい……剣はしまえよ。……危ないだろうが」
「……なあ、どうして俺がこんな人気のないところにお前を呼んだと思う?」
そう言って、マルドは無表情なまま握った剣をクラディスへと向ける。
一歩間違えれば自分を差しかねない剣を前に、クラディスは冷静さをどうにか保ったまま声を返す。
「……俺の実力を図る為だって言ってたな」
「まあな、それは間違いない。……でも、それならもっと人の多いダンジョンの方が良いだろ?」
「……何が言いたいんだよ?」
クラディスがそう言うと、マルドはいかにも優等生じみた表情から打って変わり、自分が優位に立っている事に高揚しているのか、ニヤニヤとした表情を向けながらクラディスへと言葉をぶつけてきた。
「邪魔なんだよ―お前」
「は……? 邪魔……?」
告げられた言葉の意図が分からず、クラディスは困惑した声を返す。
そんなクラディスにマルドは一歩、また一歩と足を進めていき、クラディスはダンジョン内にある崖へと追いやられていく。
やがて下がる事が出来なくなり、足を止めたクラディスは崖の下へと目を向けながら息を飲む。
それを目にしたマルドは、まるで獲物で遊ぶ獣のような酷い顔でマルドを嘲笑うように声を投げ掛けてきた。
「残念だが、お前とはここでお別れだ」
「お、おい……悪い冗談はやめろって」
「冗談? このまま生かすとでも思ってたのか? それこそ悪い冗談だ。大して役にも立たない癖に、派手な魔法で目立って……ずっと気に食わなかったんだ。安心してくれ、せめて死んだ後は英雄扱いにしてやるから。……お前は最後、モンスターから俺を守って死んだってな」
そう言いながら、また一歩、マルドは足を前に踏み出すと同時に容赦なくその剣をクラディスへと向けようとし―
「うわっ!?」
そんな剣を避けようと、体をひねろうとしたクラディスは足を踏み外してしまう。
すると、崖の下へと真っ逆さまに落ちていくクラディスに目を向けながら、マルドは満足そうに顔を歪めていた。
「安心して眠ってくれ―『元リーダー』」
仲間だった者にそう告げられ、クラディスは一人崖の下へと落ちていく。
そうして、彼は自分が作ったパーティから追放されたのだった。
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