四章 新勢力爆誕に向けて!
第22話 羨望の『狐組』
「パ……っパっ――パァァァ!!」
「カッパくん、気を確かにシャキ!」
翌日、ヨドミと百目鬼との間で交わされた契約は学校中の噂になっていた。それを聞いた河童と小豆洗い、そして枕返しの『無意味三人衆』は、朝礼の前の自由時間に教室の後ろで固まって大きなため息をついていた。
「なんでやねん! なんでヨドミに『百目鬼組』がヘコヘコしてんねん! 奴はたった一人やで、潰すんのなんて訳もあらへんやろ!?」
「何かきな臭いジャラ……」
「……っ」
「枕返しの言う通りジャラ。確かにヨドミの力は凄かった、特にあの“狐火”なんて能力は『百目鬼組』に一目置かれても不思議じゃない脅威の神通力ショキ」
河童の張り手が小豆洗いの頬に炸裂していた。枕返しは微動だにせずぶち撒けられた小豆を目で追っている。
「だからって、ついこの間まで“人間”だったヨドミなんかやっぱりワイには認められへん! なんなら『狐組』ごとぶっ潰して、ワイら『河童組』が巨大勢力として台頭してやるっパァ!!」
「うぐ……アズキぃ、わしの小豆がぁ……」
するとそこに颯爽と教室に踏み込んで来たヨドミ。昨日の『百目鬼組』との一件が噂になり、彼女はまたもやクラスメイトたちに囲まれるのであった。
「ヨドミさん、すごいチクね。聞いたわよ『百目鬼組』を今度吸収するって?」
「おー“針女”ちゃん。まぁすぐにという訳ではないがその日は近いじゃろうなー、今は一応『百目鬼組』の傘下という形になっとるが、すぐに新生『狐組』として生まれ変わる予定なのじゃ!」
「すごいわヨドミちゃん、そうしたら私も『狐組』に入れてチク」
「ずるいわん針女〜ウィック……俺も入りてえよう、長い物には巻かれろって言うわんな〜」
「針女ちゃんも人面犬もそんなに『狐組』に入りたいのかー、イッヒッヒ」
「ウオオーー!! 俺も入れろヨドミー!!」
雄叫びを上げながら飛来して来た燃える車輪――“火車”が、ヨドミの鼻先スレスレで止まって満面の笑みを見せる。
その後も皆がヨドミに押し掛け問答が続く。ヨシノリくんはと言うと、昨日ヨドミに『狐組』への加入を拒絶されたので、うるうるした瞳でその騒ぎを見ていた。
「チッ、いい気になりおってヨドミめ!」
そんな罵声を聞いて、耳聡く跳ねたヨドミの耳。顎を上げた彼女は優雅に扇子で自分を仰ぎながら、虫ケラでも見るかの様な目で河童たちを見下し始めた。
「オーッホッホッホ、これはこれは『無意味三人衆』ではないかじゃー!」
「ヨドミの奴、完全に図に乗ってるシャキ……!」
「……ぼ……」
「そーんな教室の隅でどうしたのじゃ? いつものように思った事を堂々口にするが良いぞおぬしら」
「ヨド……ヨドミのくせにッパ!!」
クラスの中心人物としてのお株を完全に奪われた形の河童は、茹で蛸の如く真っ赤になりながら額に血管を浮き立たせた。今に張り手の嵐をお見舞いせんと河童が四股を踏んだその時、ヨドミはクラスメイトたちに匿われながら、その後方で陽気な声を出していた。
「そんなに粋がらんでも、おぬしら三人も我が『狐組』に入れば良いではないか」
「かっ……ぱ……?」
「なんでジャラ……ヨドミ、お前は今日まで散々いじめ続けて来た俺たちの事、許す気なのかシャカ?」
「……っ」
キョトンとした顔を見合わせる三人衆へとヨドミは続ける。
「過去は過去、今は今じゃ。大妖怪ともなろう儂は、そんな小さな事など気にせんのじゃ」
「ヨドミ……ワイはなんて小さい男だったんや……っう、すまねぇッパ」
「お前がそんなにでっかい妖怪になっただなんて、わしら気付かなかったシャキ。許してほしいジャラ。そんでもって、是非にとも『狐組』への参入を……」
「ヨド……ミ…………うぉ」
感涙する三人衆へと、ヨドミは舌を突き出しアホ面をして見せたのだった。
「ウッソじゃーーー!!! おぬしらのして来た事をんな簡単に許すかぁああ!!!」
「なぁああっパ!!?」
「アズキィイ!!」
「ぉ……!」
「潰せ、おとろし!!」
何処からともなく降って来た巨大な
「ヨドミぃぃ……覚えとれぇえ、絶対ギャフンと言わせたるでぇえ……」
「アズキの祟りぃ、末代までぇ……」
「…………ぼ」
そこで一枚の葉っぱを手にフワフワと浮いた小さな少女が、慌てふためきながらヨドミたちに告げた。
「たいへんたいへん」
「ぬ、どうしたのじゃ“コロポックル”」
「先生がくるよ。足音がするの」
「ふむ、では席に着こうかの」
そこで会話に割って入ったのは肩を組んで包丁をブンブン振り回すナマハゲと水かぶりであった。
「ヨドミは知らねがー!!」
「今日から新しい担任が来るって聞いたど!」
ヨドミが顔をしかめると、次の瞬間に教室の扉が勢い良く開け放たれる。
「“ないすつみーつー”皆さん……今日から私がこのクラスの臨時の教師を務めます」
そこに居たのは……黒の燕尾服のハゲ頭――
「だ、だ!! 大五郎ーー!!!!!」
ヨドミの絶叫の後、クラスメイトたちは昨日授業中に立ち尽くしていた不審なジジイを目撃して言葉を失った。
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