第4話 聖女の冒険者

ギルドにて


「えぇぇ!? 聖女様だったんですか!?」



 ギルド内がざわつく。



「そうだったらしい。回復魔法を使うところを見たからな。」


「すぐにギルドゥ長へ報告しなきゃ!」



 受付のお姉さんは余程慌てたのか、書類の山にぶつかってはバサバサと散らかしながら走っていった。



「そんなに大事なんですか?」


「そりゃあな。聖女様は同じ時代にたったの三人しか現れないと言われている。アリエンナはこの時代の三人目の聖女様だ。大事になって当然だ。」



 他に二人もいるのか…。私がチヤホヤされにくくなるじゃない。



「聖女って何をやるんですか?」


「基本的にはお偉いさんに回復魔法だ。」


「チヤホヤしてもらえますか?」


「おう! かなりされると思うぞ。」


「じゃあ聖女で良いか。」


「良いかってお前……。」



 ギャモーから聖女の話を聞いていると、受付のお姉さんに呼ばれて奥の部屋に通される。


 中には大柄で筋肉ムキムキのお爺さんがいた。



「わしはギルドゥ長のナイケルソフト。聖女の件について伝える為にお主を呼んだ。」



 全然ソフトに見えない。ハードに変更したら良いのに……。



「アリエンナと言います。」


「聖女の事は知っておるだろう?」


「さっきギャモーから聞きました。」


「なら話は早い。お前は今日から聖女アリエンナを名乗ってくれ。」



 聖女アリエンナ? なんだか知らないけど……かっこいい。



「はい。」


「聖女としての仕事で、回復魔法をギルドゥ経由で依頼する事がある。その依頼は拒否出来ない事。街から出たい時は必ずギルドゥへ報告に来る事。この二点を覚えておくように。あとは通常通りの冒険者として活動してかまわない。」


「わかりました。」



 思ったよりもあっさりしてる。もしかしてチヤホヤしてもらえない?



「ところで……聖女はチヤホヤされますか?」


「もちろんだ! 王様よりもチヤホヤされるぞ。」



 聖女になって良かった。


 早くチヤホヤされたい。



「話は以上だ。冒険者、聖女アリエンナの今後の活躍を祈ってるぞ。」



 このお爺さんも良い人だったみたい。



「ソフトじゃなくて、ハードにしたら良いと思ってごめんさい。」



 私は素直に謝った。



「……。心で思っておくだけにして欲しかったぞ?」



 なんだかガッカリしている。きっと私が聖女を知らなかった事が分かってしまったのね。






「ギャモー。どうやら私、聖女だったみたいです。」



 ギャモーは魔女と呼ばれたこの私を、ずっと待っていてくれたようだ。



「俺が言った通りだったろ?」



 そう言ってニカッと笑うギャモーの顔は、人様に見せるには失礼な顔だった。


 でも……何故か私は、そんな彼の笑顔に好感が持てた。



「今度から聖女アリエンナと名乗る事になりました。」


「それはめでたい!」


「ではチヤホヤして下さい。」



 ギャモーは困った顔で私を見ている。



「チヤホヤって具体的にはどうすれば良いんだ?」



 それは考えた事が無かった。



「褒めたり……とかですか?」


「うーん。ちょっと待っててくれよ。」



 ゴホンと咳払いをして……



「アリエンナさん超可愛いっすね! いやー今日も太陽のように眩しいですわ。」


「良いですね。時々そうやってチヤホヤして下さい。」


「え?」



 きょとんとしているギャモー。更に失礼な顔してどうしたの?



「どうかしました?」


「こんなんで良いのか?」


「乾いた心が満たされるようでした。」


「やっす。」



 なんて失礼な。でも、ギャモーって顔が失礼だから仕方ないか。



「そんな事ありません。ギャモーのチヤホヤが上手いんですよ。」


「チヤホヤが上手いって初めて聞いたんだが…。」


「私も初めて言いました。今後も一緒に頑張りましょう。」



 あぁ、しかしこんなんで良いのか? とブツブツと彼は呟いている。



「ではゴブリン討伐の続きをしましょう。」


「了解だ!」




 私達は先程ゴブリンに遭遇した野原に再び戻ってきていた。



「結構ゴブリンがいますね。」



 そう言っては心を込めてゴブリンをブッ叩き、回復魔法をかける。



「ところでさっきから気になってたんだが……」


「どうしました?」


「何でゴブリンを倒した後に回復魔法を使うんだ?」



 ギャモーが不思議な事を言う。



「魔物と心を通わせる為ですよ?」


「……それは心を通わせてるんじゃなく、恐怖で従わせてるんじゃねえか?」


「恐怖で言う事聞くわけないじゃないですか。怖いなら逃げますよ。」



 ギャモーってやっぱり変わってる?



「いや、逃がさないように叩きのめしてんじゃねえか。」


「……? 心を通わせているからこそ逃げないんですよ?」


「…え?……いや………え?」



 どうしよう。ギャモーと心が通じてない。『みんな友達』を使った方が良いのかな……?



「……待て。どうして俺に拳を構える?」


「ギャモーと心を通わせようと思いまして。」


「それが構える事とどう関係がある?」


「相手をブッ叩いて回復魔法をかけると心が通じ合うんです。」


「……大丈夫だ。既に心は通じている。」


「そうですか? なら良いですけど。」



 ギャモーは分かってくれたみたい。流石の私も故郷の人達ならともかく、仲間をブッ叩くのはちょっぴり躊躇する。


 ゴブリン達は次々と討伐され、私達の稼ぎになってくれた。



「……アリエンナよぉ。」


「どうしました?」


「そんなにゴブリン引き連れてどうすんだ?」



 ギャモーが言った通り、私の周囲には『みんな友達』で心を通わせたゴブリンが大量にひしめいていた。


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