現代の魔法使い

第1話僕は魔法使い

「私君のこと好きなの」

「ねえ、石束くん…どう?」

言われた瞬間驚いた

美玖奈さんのような人に好かれているとは思わなかった、みんなに好かれているお姉さん的な人だから

「ゆっくり考えていいから…」

丁寧にお酒を嗜みながら言う

美玖奈さんは、バイト先のお客さん。

僕はバーで働いている。

今日はマスターはいなくて、もう閉店時間に近いからお客さんも少ない。

勇気を出していってくれたんだろうけど。

「すみません、僕好きな人がいて…」

「あ、そ、そうだよね…」

あー、泣きそうになっている

悪いことをしたな、、と思う

「ほんとすみません、けど美玖奈さんにはもっといい男性がいると思うんです、ですから…」

出来るだけ励ましたりつもりだけど。

逆に追い討ちをかけてしまったかもしれない

「ごめんね、好きな人いたんだ…また来るね」

「ああ、はい、またいらっしゃってください…あ、見送ります」

「ありがとう」

「じゃあ」

「はい」



行ってしまった、もっと何かできたかもしれない…

例えば…いや、ダメだな…

バーの中に戻る

「…ーふーー…」

一度深呼吸をする

「早く片付けなきゃ」

カラン…

扉を開ける音がする

黒猫だ

「みぃ」と一言言う

だけどそう聞こえるのは

普通の人間だけである。美玖奈のような人間には「みぃ」としか聞こえ無いだろう、だけど

この男は「魔法使い」である

「ますます、色男だなぁ」

「そんなにだよ」

さっきの話、聞かれていたようだ

「年々モテてきてないか?」

「そう…かな」

たしかに好かれることが多くなった気がする

大学の同級生、後輩、そして美玖奈さんのようなバイト先のお客さん

けど家柄的に困ることはある

贅沢な悩みということは、わかっているけど

「実際さっき告白されてたじゃないか?」

「とりあえず掃除とか、片付けしないと」

「おう、早くしろよー?」

なんでか偉そうである

「ふぅ…ー」

手をかざす

腕を伸ばし

自分の体と

平行になるように

「!!」

手から青い線のようなものが出る

コップや皿、雑巾などがたちまちひとりでに動きだす

まだそこそこは、魔法を使えるようだ

「おい、床が拭けてないぞ」

床まで魔法が及んでいなかったようだ

「甘いぞー昔はなぁ…」

「はいはい…」

出会ったのはこいつが子猫の時

年齢も普通にとっているらしいから

昔のことは知らないだろう、だからてきとうに話を聞き流す

「もう一度魔法使ってやれよ」

「やだよ…今日は疲れた」

「へっ病弱だぜ」

普通に雑巾で床を掛ける




「帰るぞ」

「おう」

カバンに黒猫が入る

カバンから顔だけ出している

明日も一限目から授業が入っているし少し急いで帰ろう。

あしばやに自転車にまたがる。

かごにカバンを置いてバーを後にする


バーがあるのは砂浜の近く

割と自然が多い所である

砂浜の横の道を自転車で走るのが好きだ

波の音だけが聞こえて、とても落ち着くから。今日のこともかき消してくれそうだ。


波際に誰かの気配を感じた

キキッ!

「うお!なんだよ!びっくりしたじゃねぇか」

つい急ブレーキをかけてしまった。

「あ、あれって…」


つづく

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