第128話 歌姫はゲームがお好き①歌姫の誘い
踏破までの模様は
大好評をもってフォロワーに迎えられ、予想を超える投げ銭収入とフォロワー数の増加に繋がった。
経営者としての一面でユリナは即座に判断した。
「これはいけるわ」とほくそ笑むユリナに「また悪い顔になっているぞ」と麗央が軽く、ツッコミを入れるのもいつものことだ。
正式なペアとなったイリスとテラだが、多少の内輪揉めを起こしている。
チャンネル名を『テライリ』にするのか、『イリテラ』にするのか。
どちらの名を先にするかでお互いに譲らなかったがゆえに起きた内輪揉めだった。
何しろ、まだ十五歳の少女と十四歳の少年である。
人並み優れた力を有していようとも精神性は大人になりきれない。
だからといって、子供でもないのだ。
どちらにもなれない思春期には、よくある不安定な心の動きとも言える。
もっとも「『テライリ』でどこのお寺入るのよ?」と姉二人から、真顔でツッコミを入れられたことで『イリテラ』 に決まるのだが……。
もう一組の急造ペアである
単純な力だけで考えれば、この二人はイリスとテラの上を行く。
それにも関わらず、難なく踏破とはいかなかった理由が多分に相性が悪いとしか言えない。
不協和音ではない。
そもそもが和音を奏でられるほどに両者が歩み寄っていないだけだ。
太陽の化身と謳われる存在と日と月を追いかけ喰らうとされる巨狼では元より、最悪の相性だったに過ぎない。
しかし、相性が未来永劫合わないと思われるこの二人だが、そのちぐはぐさゆえかコンビとしては成立する。
それもかなり高度な連携が取れる
本来はフェンリル狼と連携を取るのは妹のユリナであり、ここにヨルムンガンド蛇も加わることで世界が終末へと向かうと言われていたのだが、ユリナの関心が麗央にしかない以上、フェンリル狼の背に乗る冥府の女王は存在しないのだ。
こちらはイザークがチャンネル名とは何かを理解していないのでネーミングでどちらがマウントを取ると揉めなかった。
『
つまり、
日輪の化生のセンスは死んでいる……。
暫くの間、定期的に配信する必要性があり、イザークとイリスは帰ってくる予定が無い。
雷邸では若夫婦が水入らずの時を過ごしていた。
「レーオー。ゲームで遊びましょ♪」
「ゲーム? どれで遊ぶのかな」
身体を動かすのが好きな麗央はアウトドアな趣味にもそれなりに造詣が深い。
その一方でゲーム好きな一面もあり、
ユリナの見立てではゲームプレイのライブ配信でかなりのフォロワーが期待できた。
ゲームで遊んでいる時の麗央はバケツを被り、居合を行っている動画の彼とは違う。
麗央はいつものように振る舞うだけで多くの人を惹きつけることができるとユリナは知っている。
彼女は「私のレオは凄いんだから」と声を大にして叫びたいのだが、それは出来ない。
そうすれば麗央が自分だけの麗央でなくなると恐れているのだ。
「…………」
「俺で? どういうこと?」
麗央の問いにユリナは何も答えず、ただ麗央を指差すのみだった。
麗央の口から、思わず妻の十八番である「どういうこと?」が飛び出るのも致し方ない。
通販サイト『ジャングル』の欲しい物リストに最新のゲーム機があったのでユリナはリス子のアカウントを使い、贈っている。
雷邸のプレイルームにはゲーム機とソフトがゲームショップでも開けるくらいに揃っている。
それを使わずに何で遊ぼうというのか、ユリナの真意が見抜けず麗央は首を傾げるしかなかった。
「私とレオでゲームをするの。面白そうじゃない?」
「ああ。そういうゲームか」
ユリナの瞳は陽光を受け、煌めく水面のようにキラキラと妙な光を発している。
普段、心が落ち着いている時は透明感を伴った
そして、彼女の心が高揚感を伴っているとまた違う色――
今、ユリナの瞳はそのアクアマリンの色で輝いていた。
本人は悟られないように我慢しているつもりで僅かに口角が上がっている。
それに気付かない麗央ではなかった。
「レオ
こういう場合の対処法も麗央はよく心得ている。
「お姫様がお望みであれば」と口に出さず、唯々諾々と従うのが騎士の務めであると心得ているのだ。
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