第22話 備忘録CaseII・覚めない夢
「どうしたんだい?」
「何でもないわ」
「だけど浮かない顔をしているからさ」
麗央には妙に勘の鋭い時がある。
それは主に妻であるユリナに対してしか、発揮されないのだが……。
「どうして、素直に謝れないのかしら?」
「うん? なんのこと? 俺、何かやらかした?」
自分のことを言われたのかと勘違いし、慌てた素振りを見せる麗央にユリナは優しく、微笑みかける。
「レオのことじゃないわ。チャンスをあげても謝れない人はどうしたら、いいと思う?」
「そうだなぁ。俺は……許すよ」
「まぁ、レオはそうするのでしょうね」
「リーナはそうしないのかい?」
眉根を下げ、困ったような表情となった夫にユリナは「そんな貴方だから、好きなんだけど」と心の中で激しく、喝采を送っていた。
しかし、表にはおくびにも出さず、涼やかな顔を保っているのは謳っている時は別人のようと言われるだけのことはある役者ぶりである。
「
「何だよ、それ」
ケラケラと笑いながら、逃げるように走る
いつものじゃれ合いである。
そんな二人を見ている銀毛のポメラニアンとダリアは死んだ魚のような目で見守っていた。
「もういい加減にして」と思いながら……。
その日、意識不明の状態で発見された一人の青年――
彼は他の意識不明者と同じ症例にある患者だった。
夢を見ているような状態で意識を失ったまま、目が覚めない。
ところが奇跡的に意識を回復した。
しかし、「もうたくさんだ」「殺してくれ」と叫び、自傷行為に及んだ。
そのままでは危険ということもあり、隔離されることになった。
「あの女の声が聞こえる」と血走った目で訴える勇は精神に異常を来したと判断されたのである。
だが、勇は確かに見ていたのだ。
目が覚めて、魔女として殺される。
そして、再び目が覚めると同じ事が繰り返される。
憎まれ、殺される。
その繰り返しに勇の心は死んだ。
夢の世界の玉座に腰掛ける女王がまた、憐れな魂を一つ手に入れた。
ただ、それだけのことである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます