EPISODEⅡ

プロローグ

 世界は戦争をしている。

 地球対異世界。そんなSFじみた構図が、西暦二一一九年現在、三〇年目を迎えている。

 異世界イグドラシル。魔力素という特殊な粒子を生成し、それを制御することで特異な物理現象を生み出す技術、いわゆる『魔法』の存在する世界。人口八億人程度の、地球とそっくりな環境の世界である。ファンタジー色の薄い、都市部には乱立する高層ビルと間を縫うハイウェイという、魔法の世界=ファンタジーという幻想をぶち壊す世界だ。

 イグドラシルは技術大国ミーミル王国、軍事国家ウルズ帝国、広大な土地と資源を持つフヴェルゲルミル連邦の主に三国から成り立っている。その三国がイグドラシル連合として、地球と戦っているわけである。

 とはいっても、異世界同士の戦いだ。大平原で互いの軍勢がぶつかるわけではない。

 次元孔――一般にはディメンションポケットと呼ばれる次元の裂け目を通って軍勢が行き来するわけだが、それを開けられるのはイグドラシル連合のみ。地球側からは開けられない、というか、開け方がわからない状態なのだ。

 しかも、連合はハルクキャスターと呼ばれる全高一〇メートル程の人型魔導兵器を使用し、火力・機動力・防御力を備えた反則的な兵力で、地球側を圧倒。現在オーストラリアは連合の支配下にあるというのが現状である。

 それに対し、多国籍統合軍――MUFは、横須賀基地にて鹵獲した最新型の敵機及び三年前にオーストラリア攻防戦においても鹵獲した敵主力機から、二機の対ハルクキャスター用人型機動兵器ハルクレイダーを造り上げ、しかも横須賀基地に侵攻してきたハルクキャスターを、最新型戦闘機〈RF-6〉の支援の下とはいえ五機も撃墜するという結果を残した。ハルクキャスター五機といえば、小さな基地の一つくらい潰してしまえる兵力なので、これはなかなかの偉業と言えるだろう。

 僕が言うのもなんだけどね。

 この僕、相模龍斗さがみりょうとはMUF横須賀基地に所属する一八歳の少尉であり、同時に試作型ハルクレイダーの一機、AHW―X1SC〈アルフェラッツ〉のテストパイロットでもある。

 実はこの機体、鹵獲した敵の最新鋭機である、〈ベラトリクス〉という第四世代ハルクキャスターの改修機で、もう一機のハルクレイダーである〈ペルセウス〉(こっちはちゃんと地球製)と同時に試験開始されたものだが、先の横須賀基地での戦闘に参加し、〈アルフェラッツ〉の右腕が破損し、〈ペルセウス〉に関しては大破。現在専ら修理中なのであった。

 この戦いが、この先どうなるかはわからない。

 たった二機のハルクレイダーだけで、この膠着した戦局が変わるとは思えない。

 でも、何かが変わるかもしれない。

 そんな淡い希望と底知れぬ不安を抱えながら、僕は日々を過ごしている。

 そう、『彼女』と共に。

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