麺話:一軒目:麺族 魅惑のうどん店

前書き

麺話はただただうどんを食べるだけの時間です。読み飛ばしも出来ます。

でもうどんの描写は頑張ってるので読んでほしいのです...!!!



外れアウトローたちを疑念は残るもの一度撃退し、少し遅れた時間ながらも昼食を取りに、近場のうどん店、麺族へと向かった二人であった。


そして二人は入店するや否や注文を行う。


「醤油うどん冷の大一つ!」

「僕はあったかいかけうどんの中で」

「はい~。醤油冷大、かけ中~!」


二人のオーダーに、おばさんが後ろに声をかけたと思えば、その後30秒ほどで、うどんが出てくる。


「はい、これ醤油大と、かけ中ね」

「ありがとうございま~す!」


元気よく感謝を述べる泰斗とは対照的に、灰はペコリとお辞儀をする。


「天ぷらは...まあ残ってないよな」

「お昼どきすぎてるから...」


この店では本来、定番である昆布やとり天、かき揚げを始めとして、しそ、唐揚げ、果てはカニクリームコロッケといったうどん屋としては珍しいラインナップが取り揃えられている。


「こうなったら仕方ないね。あれをやるぞあれを」

「またやるのか...体に悪いんじゃないか?」

「そんなことよりカロリーが大事だよ。朝から何も食ってないんだ」


灰からそう言われながらも、泰斗はそう言ってうどんを受け取るレーンの反対側への台...調味料のテーブルへと向かう。そして――


天かす追加カロリードープ!」


そう叫ぶのをを見て、


「はぁ...またやってるよ...」

「まあまあ、カロリーも取れて旨くなって一石二鳥だろ!」

「叫ぶのをやめろっていつもだな...」

「お前だって中2の頃まd」

「や!め!ろ!」


そう言って、灰は自身の黒歴史を掘り返されるのを阻止する。


「まあいい。席行くぞ」

「そうだな」


そう泰斗が切り出し、二人は席に着く。


そして一口目を....食べるのではなく飲むのだ。

そう、うどんが香川に持ち込まれておよそ1500年、生粋の香川県民のDNAにはうどんを飲み込むのに特化した喉の構造を持つように進化したのだ!....と信じられている。


「う~ん!味わかってても美味ぇなあ!」

「やっぱりうどん好きはDNAに刻まれてるんだよなぁ」


うどんの美味しさに感嘆する泰斗に続き、灰にしては珍しく軽いジョークを放つ。

そうなるのも当然である。

何しろ醤油うどんには輝く麺に乗ったネギ、そして天かす追加カロリードープによって追加された大量の油の塊。極めつけには醤油うどんのために調節された甘めの醤油、さらには一般的な調味料でありながら奇跡的なまでの旨味を引き出す味の素が載せられている。

このうどん、ネギ、天かす、醤油、味の素の五種の素材によって、それぞれの味は最大限に引き立てられる。

天かすの油がうどんの滑らかさを増し、醤油の染みた天かすはもはやおかずのような味を発揮する。

そしてその油のしつこさを消すネギである。

その打ち消された油の奥から現れるのは、甘くも塩辛い醤油の絡んだうどん、そしてそれに付随する天かすである。その天かすは濃い味ではあるのだが、それもうどんによって中和され、醤油のちょうどいい塩辛さ、うどんの甘みがお互いに引き立つ結果となる。


つまるところそれは―――奇跡的相性マリアージュであった。


対して灰の食す、かけうどん。こちらは出汁を使ったものであるのでコシが多少失われてはいるものの、その出汁はイリコ、つまりカタクチイワシの出汁、そして昆布出汁の二つのいいとこ取り、ハイブリッドである。この店の出汁は他の店と比べるとイリコの味が強く、薄めのもの。

うどんは柔らかく、噛みやすい、そして喉を滑り落ちるように通っていく。

醤油うどんとは対照的に、塩味と甘味ではなく、出汁の旨味、うどんの甘みに重点が置かれたメニューである。

その温かく、暖かい味はこの季節、12月上旬の寒くなってくる時期においてはもはや万能薬エリクサー。科学の隔離実験場である四国の人間をして、ファンタジーの産物としてたとえざるを得ない程の味だった。

そしてそれを飲み込む灰の勢いと言ったら圧倒的で、間髪入れずうどんを口に含んでは嚥下する。


例えるなら―――ナタデココ入りジュースやゼリー。スープならミネストローネなどを飲むときのよう...つまるところそれはもはや飲み物であった!



そうして二人は無心でうどんを貪り、店を出る。


「いや~美味かった!あと小一杯はいけるな!」

「毎回言って食ったことないじゃないか」

「まあルーティーンってやつよ!」


「まだ一杯いける」これは誰が言ったか、こんな美味いうどん《飲み物》、まだまだいけちゃうぜ!と言った意味を含んだ言葉である。ただしこの言葉を発して本当に二杯目を食べることは殆ど無い。


「まあ今日はいい時間だしこのあたりで解散か?」

「といっても僕ら帰る方向一緒なんだけども」

「まあまあ、そういうテンプレってやつよ」


そう言って、泰斗は大っぴらに、灰は小さく笑いながら家に帰るのだった。

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