第20話 円安は悪いことなのか?

 最近よく「円安」という言葉をニュースで聞きますが、これは本当にわるいことなのでしょうか?


 2024年初頭、円は1ドル142円ほどでしたが、先月あたりから1ドルが150円を超えるようになり、5月13日時点で155円80銭ほどになっています。つまりお正月に比べ現在は円は13円ほど安くなっています。

 しかし株式市況は5月13日時点で38000と、年初に比べ大きく、上りも下がりもしない数字になっています。

 同時に日本の10年償還の国債の価格の推移をみるとマイナス金利政策をやめ、わずかながらも金利が付きました。その為の微増分とみる程度の国債の価格の上昇値です。


 国の景気が悪くなると上記の、円、株式、国債の価格がさがります。「トリプル安」というやつです。しかし日本は円安にはなっていますが、株式市場も、国債市場も大きな変化はありません。なぜでしょう?


 日本経済が近年もっともまずかった時期は、民主党政権時の1ドルが80円を切ったころです。この頃は株式平均額も1万円を大きく割り込み8000円ほどしかありませんでした。

 しかしこの頃に得をしていた業界がありました。簡単に言うと輸入を主とする産業です。例えば火力発電に使う原油は今日時点(5月13日)で1バレル(1樽)78ドルから82ドルほどです。1ドルが今の約半分だったころは単純に倍の量を買えていたとも言えます。実際の2010年当時1ドルは78円でしたが、原油価格は今とほぼ同じ78.5ドルほどでした。

 そうであったからこそ、東日本の震災の時に「火力発電」に切り替えても何とかなっていた(電力会社は儲けが今より出ていた)とも言えます。

 同様に商品を海外から輸入し「均一価格」で販売する業界もにぎわっていました。1ドルの原価で発注したものが原価78円で買えていたので利益は十分出ていました。

 しかし昨年頃から円は1ドル140円ほどになり、輸入する側は1ドルで発注していたら、赤字が出る状況になっています。昨年から今年の春にかけて様々な業界で商品の値上げがありましたが、「均一価格」で商品をうっていた業界の大手と言われるものでない店舗が、私の住む地域で閉店をしました(私の知る限りでは2店舗)。

 まあ田舎なのでそんなに多くないようにも見えますが、原材料を輸入に頼っていたファミレスの店舗も閉店し、ファストフードの店舗では商品の値上げ、その他の生活必需品もここ2,3年の間にかなり上がっています。

 同時に消費者の生活はよくはなっていません。正社員が減り、派遣社員や、パートが増えたこの時代に、春に「組合」が春闘しゅんとうを行っていましたが、あの結果は、派遣社員やパート、アルバイトには反映されていません。あの賃上げはからです。


 昨日トヨタの四半期決算が発表され、史上最高の売り上げがあったことを述べていましたが、あれにはからくりがあります。決算を行うときに国外での販売したものは、その計算した時点での為替相場で換算されます。

 1ドルが142円だった1月を含む四半期の場合はドルだての売り上げは142円で計算されました。しかし先日の四半期の売り上げは恐らく1ドルが150円以上、の時に計算されているため、10円以上の円安で計算されています(先月は1ドルが155円を超えた時期もありました)。

 そうなると例えば車1台を2万ドルで売ったと仮定すると、1月の換算では284万円、現在の円安時点で1ドルを153円として計算した場合306万円となり、同じ金額にて売ったものの価格が1月を含む四半期と、先日発表された四半期では20万円以上の売上金額が違います。当然現在売りに出している在庫品も同じ計算をされるので、売れる見込みの在庫品は資産として計上されますので、ドルだてでの売り上げが変わっていなくても営業利益は確実に増えます。これが先日のニュースでの売り上げが最高だったことの、答えです。


 日本政府と日銀は年初からの円安に対して、大きな円買いによる介入をしていなかったように見えます。そのおかげで海外で物を売っていた業種は、今回の決算で大きな利益を出し、逆に輸入に頼っている業種は減益になるか、決算を先延ばしにし、円安差損による赤字を先送りにする「飛ばし」という方法をとっているのでしょう。


 これらの手法は現時点では「儲かっている」ように見えますが、結論を先送りにしていることや、実際に景気が上がっているわけではありません。消費者の「生活が苦しくなった」という人の割合が多いのもそこにあります。


 物価が上がっているが労働者の賃金がそれよりも上がっていないという状況は、結構昔からあり、「所得倍増」をかかげた池田隼人氏が総理だった時には、確かにその時の経済指標であるGNP(国民総生産)は倍増しましたが、それ以上の物価の上昇もあり、国民の中に景況感があったかと言えば、微妙と言わざるを得ません。

 歴史は繰り返すが、国民の平均年齢が上がり、子供の数が確実に減っている現状で、このトリックはいつまで続けることができるのでしょうか?


 

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