最強特殊部隊とヒロインズ〜何事も圧倒的暴力で解決! 魔王召喚から始まる多国籍軍の異世界侵略作戦〜
草薙 刃
第1章~魔王召喚編~
第1話 Rising Operation 前編
どこまでも続く澄み切った青い空。
果てなく広がるそこを悠然と渡っていく翼があった。
「小隊長より各騎、編隊を乱すな。高度を維持しろ。訓練だと気を抜くな」
「「「了解」」」
地上から見ても圧倒的な存在感を誇る
重力の
しかし、この翼竜たちは自然の摂理のままに生み出された存在ではない。
野生種との最大の違いは、各竜の間で言葉のやり取りがなされているように、その背に跨った
「はぁ……。いいよなぁ、竜騎士になれるヤツは……」
「俺たちゃ地上に這いつくばってるってのに……」
地上では来るべき戦いに備えて訓練を続ける一般兵たちが羨望の眼差しで見つめていた。
「でもよォー。いざ戦いになったら真っ先に最前線送りだぜぇ?」
「だとしても歩兵なんかより万倍マシさ。剣や槍で魔族と殴り合うなんて正気じゃないぞ。下手すれば味方の魔法にも吹き飛ばされちまう」
騎馬兵などより数段上のエリートである竜騎士は、将来の出世を約束されたに等しい存在だ。
嫉妬も多く受ける身だが、それ気にしては空も飛べない。
《
人類圏の中でも上位の国だけが保有可能な兵科で、敵航空戦力への直接攻撃のみならず、最大上昇高度1,000メートルからの急降下による対地魔法攻撃を行う。
そのため、勇者や英雄といった“異世界からの来訪者”と“覚醒した人類”、あるいは
ワイバーン自体は人類の生息圏から少し外れれば見かける生物だが、幼体期から飼育され人間慣れしていなければ、たちまち彼らは人類の驚異となる。
「俺もあんな風に飛びたいねぇ」
騎士が翼竜を操るように、ワイバーンもまた騎士を自身の相棒と認める必要がある。
その上で翼竜の持つ魔力を介して空間魔法を常時展開することで、はじめて風の流れを制御し野生種とは比べ物にならない高速飛行を可能とするのだ。
そう、竜騎士は“人類の作り出した
「フン、気に入らねぇ。見下されてるみたいで俺は好きになれないね」
「カッコつけやがって。最終的に勝てればいいんだよ。好き嫌いばかりじゃこれまで魔族に勝てなかっただろ」
「それはそうだけどよ……」
兵士たちが交わす言葉通り、“航空戦力”の登場が膠着状態にあった魔族との戦線を限定的ながら押し上げた。そう言っても過言ではない。
「今頃魔族も必死になって対抗策を探してるんだろうが、そう簡単にはいかねぇだろ」
魔族側にも魔物を使役する者は確認されていたが、搭乗してより強力な兵科とする、あるいは偵察に使う思想はそれまで存在しなかった。
そんな
なぜなら――――
突如として大空に生じたのは爆音と火球だった。
編隊の端を飛んでいた竜騎士の一騎が爆炎に飲み込まれ、人と竜の区別もつかないほどの肉片となって地面に落ちていった。
「なんだ! 何が起こった!?」
周囲を飛行していた竜騎士たちの間に動揺が走る。まさに一瞬の出来事だった。
「何があった! 見ていた者はいないか!?」
隊長格の騎士が動揺を隠して部下に問いを投げた。
風の吹きすさぶ高空のため、翼竜の魔力を使った通信魔法は欠かせない。
「わ、わかりません! あの爆発となると《炎翼竜》の事故ではないかと……!」
ワイバーンにもいくつか種族があり、火炎を吐き出す《炎翼竜》がもっとも多く生息し、育てやすく人にも慣れるため主要国で飼育されている。
もちろん問題がないわけではない。
《炎翼竜》は体内に可燃性の液体を蓄えており、口腔内に生み出した火属性魔法を媒介に火炎弾や火炎放射として放出する。
単純な原理ゆえに、暴発事故も時折発生していた。
「この忙しい時に……! きちんと躾けておかないからだ……!」
にわかに騒然となった竜騎士たちだったが、稀にある不運な事故で片付けようとした。
気の緩みと言えばそれまでだ。まずは索敵を行うべきだった。
それを怠ったがゆえに、彼らは最初の犠牲者と同じ運命を辿ることとなった。
「……ん?」
一騎のワイバーンが何かを感じ取ったように鼻先を明後日の方向へと向ける。
愛機の動きを
「何か――」
空を切り裂いて高速で飛来する物体。
それを強化魔法で増幅された視覚と聴覚が捉えた瞬間、彼らの意識は消失した。
大空へと花弁にも似た爆炎を咲かせながらバラバラの肉片となって地上へ落下していく。
真っ青なキャンバスに描かれた爆煙の
「――
ワイバーンが飛んでいた場所から数キロメートル離れた地上。
火のついた煙草を咥えて双眼鏡を覗き込む男がいた。
吹きつける風で吐き出す煙が流れていくと共に、くすんだ金髪もまた小さく揺れる。
「慢心だな。あんな風に
吐き捨てるようにつぶやく彼の背後数十メートル先には、鋼鉄で作られた大型の異形がふたつ鎮座していた。
9K332“トールM2”。NATOコードネームではSA-15“ガントレット”と呼ばれる旧ソ連製の自走式短距離地対空ミサイルである。
砲塔上部後方ではフェーズドアレイ式の索敵レーダーが絶えず回転しており、正面に取り付けられたスクラムハーフ誘導レーダーが先ほどまで竜騎士たちの舞っていた空を睨みつけていた。
もしも軍事知識のある者が見れば「戦車のようだ」と思うかもしれないが、内燃機関すら存在しないこの世界ではまさしく未知の物体だった。
「《ドーナッツ屋》より《タクシーリーダー》。
周囲に新たな敵はいないとトールM2の車長から連絡を受け、男は引っ張り出した車載無線機に向かって口を開く。
『《タクシーリーダー》、了解。これより
ほどなくして返信があった。
背後の雑音が多い。すでに動き出していたのだろう。気の早いことだ。
「《ドーナツ屋》了解。デートの成功を祈る」
短い交信の後、ワイバーンを撃ち落とした男たちの頭上を、大気を叩く轟音を響かせて飛翔する鋼の塊――MH-60L DAP 多目的ヘリコプターが通り過ぎていく。
「やれやれ。ついにファンタジー世界で戦争か。まったく、とんでもないところに来ちまったもんぜ……」
一瞬で遠くなるヘリの後ろ姿を見ながら、男は煙草を携帯灰皿に放り込む。
黒塗りの機体に搭乗した彼らの向かう目標は、先ほど竜騎士が飛んでいた空域の真下に建てられた砦だった。
「あれがそうかい?」
付近の偵察に出ていたふたりの少女が戻ってくる。
巨漢と同じ砂漠迷彩の生地をローブ代わりにしており、フードの下から桃色と赤色の髪が覗いていた。
「ああ、ここからが本番だ。……さて、頼むぞ
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