グルーシー
YOSHITAKA SHUUKI(ぱーか
ハーベル編 その1
001
いい素材が取れたね。
002
僕は、殺人犯だ。殺人犯といってもただの殺人犯ではない。僕は、料理人の殺人犯だ。
ボクには、友達がいる。天野浩二という人だ。
何でもその人は日本人で、はるばるオータムの街に来たらしい。だから、その人と暇があっては話し、日本語を勉強させてもらっている。そのつけか、僕も日本語が話せるようになってきた。
話せると言っても、カタコトくらいでちゃんとは喋れない。ありがとうとかゴメンなさいとかそんな程度だ。でも、そんな程度でも日本語の素晴らしさはよくわかる。感情表現の素晴らしさというか、芸術というか、その言葉言葉一つに物語が詰まっている。そう、僕という料理人は今、日本語に翻弄されているのだ。
「おい、ハーベル!!お前また仕事サボっただろう。」
「なんでわかったんだよ。」
料理長が俺を説教するのはこれで何度目だろうか。
「お前が仕事抜け出して、あの天野浩二とかいう日本人と会ってるのは明白だ。お前、アイツと何話したんだ?」
「フッそんな大層な話はしてねぇよ。俺が元殺人犯だからって怖がってんじゃねぇよ。」
「いや、、別にそんな、ちょっ、、おいまて!」
俺はそいつの元から逃げるように立ち去る。あのバカコック長とはやってられないからな。
俺は市民の目をかいくぐり、街のハズレまでやってきた。俺は元殺人犯だからな、そんなやつが市民のところをウロウロしてたらまずいだろう。
だから俺は、俺だけが知ってる極秘ルートを使って、あのコックから逃げてきたんだ。アイツとは釣り合わない、というか仕事をやめたい。
「料理人以外の仕事がしてぇなぁぁ、」
俺は愚痴を零しながら、海を眺める。この海には、鳥が一匹もいない。だからバードウォッチングはできない。当たり前だけどな。
「おい、ハーベルー!」
遠くの方から声がした。あれは誰だ。
徐々にこちらに近づいてくる。そして、鮮明になってくる。そう、アイツは、、、天野浩二だ。
「天野、どうしたんだよ。」
「日本語で喋れよ、ハーベル。」
天野浩二は照れくさそうに俺の方を向く。さぞかし俺のことが好きなんだろうな。
「あんなに日本語教えたじゃないか。」
「天野、前も行ったけど、俺は日本語を勉強したいんじゃない。日本語を知りたいんだ。」
「同じだと思うけどな。」
同じじゃないだろ、俺は日本語を知りたいんだ。
そこを天野はわかっていない。
「にしても、俺、天野にここの場所教えてないよな。」
「毎日来てるじゃないか。」
「毎日来てねぇよ。」
「冗談だよ、冗談。ハーベルは冗談通じないんだよね。」
冗談は日本特有だ、他の国にはそんなものないからな。
そして、いっときの波が流れる。
海鳥が泣かないこの海には、波の音しか響かない。そして、一瞬の沈黙が流れたあと、天野浩二が口を開ける。
「なぁ、ハーベル。」
天野浩二は、半ば難しい顔をしながら、海を眺めている。いつ口を開いたと言わんばかりに微動だにしない天野浩二は、初めて見る。まるで、夏に見るオーロラのようだ。
「なんだよ、天野。」
天野の考えていることがわからない。いつもならばわかるのだが、、、
これが日本人とオータム人の違いなのだろうか?
天野は何か言いたげで、口の中でガムをゆっくりと咬むような動きを見せる。そして、ついにその文章を口に出した。口に出してしまったのだ。
「俺、実は日本人じゃないんだ。」
日本人じゃない、、、
俺は何も聞いてない。何も聞いていない。
「今まで黙っててごめん。」
俺は何も聞いてない。俺は何も聞いてない。
俺は何も聞いてない。俺は何も聞いてない。
「騙すつもりじゃなかったんだ。」
俺は何も聞いてない。俺は何も聞いてない。
俺は何も聞いてない。俺は何も聞いてない。
俺は何も聞いてない。俺は何も聞いてない。
「ハーベル、どうしたの、、」
聞いていない。聞いていない。聞いていない。聞いていない。聞いていない。聞いていない。
ハーベルは、元殺人の本能を呼び覚まし、天野の腹部に、強烈な一撃を与える。
天野浩二の腹部から液体が溢れ出す。この世の動くものによくある液体だ。
「安心しろ、天野。ここには人は来ない、海鳥もなかない、人も泣かない。」
「ハー、、、ベ、、ル・・・・」
天野浩二はもうすぐ息絶えるだろう。でもいい、こいつは死んで当然だ。日本語を侮辱したこいつは死刑に値する。
「そして、ありがとう。俺を元殺人犯から現殺人犯に引き戻してくれて。」
俺は、その屍を海にほうり捨てた。どんな理由があろうといけないことをしたバツだ。
だから俺は正しいことをした。あの時も、このときも。
003
アダミントーヌーテーテノー...
アダミントーヌーテーテノー...
訳のわからない言葉が流れる中、ハーベルは自分自身のした事に圧倒的な喜びを覚えていた。ハーベルの目の前に置いてある遺体は、自分自身がてをくだした遺体であり、滅ぶべき人間であった。
その遺体には、腹部に大きな穴が空いており、殺人犯の残虐性を物語っている。
「お前がやったのか。」
コック長が意味深な表情をしながら話しかけてくる。ハーベルはコック長の方を向かずに、遺体を眺めながら、話し始めた。
「俺じゃありません。俺は友達を殺すような殺人鬼じゃないんで。」
「そうか。」
コック長は心の中で違和感を覚えながらうなずく。
「俺は、許しません、俺の友人を殺した人を。」
「そして必ず俺が殺す。」
ハーベルの眼は決意に満ち溢れていた。そんなハーベルを横目に見ながら、コック長は、言葉を盛り上げる。
「まっなんでもいいけどよ、、仕事に間に合えよ。じゃあな。」
コック長は、その場から立ち去る。ハーベルは、最高な気分だった。ここには俺一人しかいない。つまり、この偽日本人をもう一度刺し殺せるという事だ。
反応がない。ただの屍のようだ。
「料理長、注文入りました!」
オータムの街のある料理専門店は、まちのちゅうしんぶにある。そこには、車の行き通りが多く、レストランも数が多い。しかし、その中に一際目立つレストランがおいてあった。
名前をグルーメーという。
「まずは、紹介しよう。この人がアレックス.ファイアーだ。まぁこいつは火を扱う専門だ。」
「どうもー、アレックス.ファイアーでーす。もと放火魔でーす。」
コック長は、グルーメリポーターに料理人を紹介している。この女性は、放火の容疑で捕まった過去があり、殺した人間も数多いという。
「えっ、放火魔なんですか。へーっ、じゃあ今じゃちゃんと更生しているんですね。」
「うーん、どうだろうね。」
コック長はあごを触りながらうなずく。アレックスファイアーは、満点の笑みを浮かべながら、グルメサポーターを見てくる。グルメサポーターは若干日和ったのか後退りしながら、乾いた笑みを浮かべる。
「へぇぇ、そうなんですね。じゃっじゃあ、あちらの方はどなたですか。」
グルメサポーターは、奥にいる男性に興味をし、コック長に質問する。
「あぁ、あの人は詐欺師だよ。」
「....さっ詐欺師ィ、、」
リポーターは驚いた表情でまた、後退りする。
(なんですかなんですか、ここの料理店は犯罪者ばっかりじゃないですか。)
リポーターは、完全に怯えていた。そして、その追い打ちをするように、リポーターの後ろのドアがいきよく開く。
そこには、息を切らした男性がひとり立っていた。
「じゃ、じゃあ、この人は誰ですか。」
リポーターは、その男性を指しながら尋ねる。
「ああ、その人は殺人鬼だよ。」
「ぎゃあああああああああああ、、、失礼しましたーー。」
リポーターは恐怖のあまり、店から飛び出していった。そして、いっときの沈黙が流れ、ハーベルが口を開ける。
「あの人、いいんですか。そんなこと教えて。」
ハーベルは、コック長を見ながら、コック長の反応を待っている。
「ああ、いいんだよ。どうせ発表しないし。」
「何でですか。」
「発表したら殺されると思うでしょ。」
____そんなもんですかね。ハーベルは内心安堵を灯しつつ、そんなことを心にこぼした。
肝心のコック長とは言うと、鼻息を更かし、自信満々に胸を叩いている。
そんなコック長をジロジロ見るハーベルに、アレックスは言葉をこぼす。
「まぁまぁ、ハーベルくん。まぁいいじゃない、何とかなったんだし。」
「コック長の言うことを聞いちゃ駄目ですよ。」
アレックスに愚痴を漏らし、コック長の嫌味をコック長のいる前で言う。
しかしコック長にとっては、そんなことへのへのもへじだ。かなりメンタルも図太い。
「お前ら、仕事はじめるぞー」
「「「「「「はーい、」」」」」」
厨房に一斉の声が聞こえてくる。男女3人3人で別れたこの部屋に、一般人はいない。
この部屋には、犯罪者しかいない。いわば、料理店という刑務所なのだ。
みんなが、仕事に取り掛かる中、バーベルだけ自分自身の違和感に気付き始めていた。
「何ぼさっとしてんだ、オラ!」
暴行犯に指摘され、我に帰ったハーベルは、仕事に取り掛かる。
____絶対いつか脱出してやる。この牢屋から。
ハーベルは、仕事を支度しながら、決意を胸にする。
そして、日本語を知るんだ。日本語を知って、全世界に広めてやる、そうすればこの世界は平和になる。
アレックスはハーベルを不思議に思ったのか、顔をしかめながら、こちらを凝視していた。
そして、コック長もこちらを見ていた。
しかしハーベルには、その光景は映っていなかった。映るはずがなかったんだ。
脱出してやるんだから、目に移す必要がない。
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