修復

世界が完全だからわたしは存在する。

わたしが存在しないことが、世界にとって安全なのだ。

わたしの非存在しないことが、世界にとって安心なのだ。


世界は不十分だ。

わたしは無力だ。


無傷は恐怖心のあらわれ。

懺悔の根源に嘲笑を見る。


わたしは穴を覗く。

みんなはわたしを穴へと沈める。


混沌たる溶岩の湧き出しは、わたしの身体に触れて冷えた。

固まった溶岩はわたしを上へ上へと押し上げる。

てっぺんから見た人々は、どれも美しく這い回っていた。


わたしがいなくても、世界はざわめきを止めない。

わたしがいなくても、世界は穴をうめようとする。

わたしがいなくても、世界は体を成す。

わたしは特別では、ない。


世界がわたしを欲するのは、世界が完全すぎるからだ。

わたしの存在が、世界にとって証明なのだ。

わたしの非存在が、世界にとって必要なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る