ヒロインと悪役令嬢 2



「君たちは何を話しているんだ! そのペンの持ち主はシャルロッテだとはっきりしているだろう!」


声を荒げながらジークフリードが近づいてきた。


「来ないでください!」

「こっ!?」


真っ直ぐ自分に向かってくるジークフリートに対し、シャルがぴしゃりと言い放つ。

愛する彼女から厳しい口調で拒否をされ、ジークフリートはぽかんと口を開けてその場で足を止めた。

そんな姿を見たシャルは、顔をぎゅっとしかめると呆れたようにため息をついた。


驚いた。

こんなシャルを見るのははじめてだ。

それにさっき言ってた『嘘の証明』ってなんのこと?

わたしにはあの馬鹿王子が嘘をついているのはわかるけど、ヒロインがなぜ?


訝しむわたしに気づいたのか「少しだけ任せてください」と、シャルは小声で囁き、ジークフリードに自ら近づいていった。

自分に向かってくるシャルに対して、ジークフリードは恐る恐るといった様子で腕を差し出す。

が、その腕はあっさりと押し返しされた。

観衆が一気にどよめく。


「わたくし、今度はジークフリード様に聞きたいことがございます」


シャルの口調は、わたしとロッティに訊ねた時とは全然違う厳しいものだった。

なぜだかわからないが、とても苛立ち、怒っているようにも見える。

しかし、両手を前にそろえて背筋をピンと伸ばした姿は、とても堂々としていた。


「な、なんだいシャル?」


腕を払われたことがショックなのか、異様な様子に焦っているのか、顔だけが取り柄のジークフリードは完全に作画が崩れている。


「先日、ジークフリード様主催の慈善パーティが行われました。あの日シャルロッテ様は寄付金額をパーティ会場でお書きになり、それを直接ジークフリード様が受け取りましたよね?」

「そうだよ、それがどうかしたのかい?」

「わたくし見てたんです、シャルロッテ様が寄付金を書いた紙と一緒に、そのペンをジークフリード様に渡すところを」


話を聞いていたロッティが「ああ」と小さく声を上げた。

その声に反応するかのように、シャルはこちらに振り返り、小さく拳を握って頷いた。


えっ今の何? めちゃくちゃ可愛いけど……なぜそのポーズ? 

不思議に思っていると、シャルはジークフリードに向かって更に話しをつづけた。


「最初から説明しますね、あの慈善パーティの日、わたくしとシャルロッテ様が話をしているところに、ジークフリード様がいらっしゃって……」

「ああ、もちろん覚えているさ、君がシャルロッテに嫌がらせをされていた時だな」

「違います、そして先ほども言いましたが、それ以上近づかないでください」

「ちっ、近っ……!」


ヒロイン二度目のあからさまな拒否に、わたし達はもちろんのこと、さすがの馬鹿王子もやはり様子がおかしいと気づいたようだ。

狼狽えるジークフリードを、シャルは凛とした表情で見つめている。


そういえば、この二人が目線を合わせているのを見るのは初めてかもしれない。

今まではロッティに気を遣って、ジークフリードを見ないようにしているのかと思っていたけど……。


シャルは、溜息をついてあたりを見渡した。

周りに集まっている人達は、好奇心に満ちた目をギラギラさせている。

それを確認した後、改めてジークフリードに問いかけた。


「ジークフリード様、この場所でお話を続けてもよろしいですか?」

「全然かまわないよシャル、いったいどうしたというんだい? ペンのことならもう答えは出ている、そこには警備団もいる。安心しておくれ、もうひどい目には合わせないよ」


相変わらずの甘々トーク。

さすが王子、心が強いわーと、変なところに感心していると、シャルがふんっと鼻で笑ったように見えた。

え……? その態度はどういうことなの? 理解が追い付かない。

これまで数々のイベントをこなし、この最終イベントまできたんじゃないの?


ジークフリードの言葉をを完全に無視したシャルは、また口を開いた。


「先程の話の続きですが、わたくしとシャルロッテ様が話しているところに、ジークフリード様が来られました。そしてお二人が言い争った後、シャルロッテ様が寄付金をカードに書かれたんです」


ヒロインの言葉に棘があるわ……ロッティも横で吹き出している。

ジークフリードは気迫に押されたのか頷いているだけだ。

シャルは続ける。


「シャルロッテ様は寄付金を書かれた後、ークフリード様に、カードと一緒にペンを渡してしまったんです。ジークフリード様はそのまま受け取りましたよね?」

「あ……んん?」


ジークフリードが首を傾げた、ロッティはまた吹き出した。

やっぱりそうだよね、シャルがところどころ嫌味を混ぜて話している。

天使のような顔で優しい口調なのに険がありすぎる。


「曖昧な返事をなさっていますが、わたくし見ていたんです、受け取ったことも! シャルロッテ様が帰られた後のことも!」


姿勢をまったく崩さないシャルの背中から、覇王ばりにぶわっとオーラが立ち昇った……ように見えた。

え、一体何が始まるんです?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る