三日後
この世界で生還して三日目の朝。
体調は一度死んでしまったとは思えないくらい回復していた。
そして、エミリーの記憶が全て戻った……というより、芽衣子の記憶はあるままで、自分はエミリーになっている、いや、わたしはエミリーだ、と感じていた。
この二日間、婚約者であるヘンリーが毎日お見舞いに来てくれたおかげで、小さい頃からの思い出もしっかりと記憶として戻ってきた。
最初はヘンリーと話すのがとても怖かった。
彼に関することを、全く思い出せなかったらどうしようという不安からだった。
でも話し始めた途端、記憶が湧き上がるような、何かが無意識化の中に満たされていくような感じがして、あっという間に何の心配もなくなっていた。
ヘンリーとは幼馴染で、わたしは小さい頃からヘンリーに恋心を抱いていた。
その気持ちは、今でも変わらないというのもしっかりと実感した、というよりしすぎているくらい!
だって、顔を見るだけでたまらなくドキドキしてしまうんだもの。
『今でもふとした時に、エミリーが生き返ったことが夢ではないのかと不安になるんだ』
昨日もお見舞いに来てくれたヘンリーは、優しい顔でそう言いながら、わたしをぎゅっと抱きしめた。
その瞬間、少女漫画でよく見ていた、丸くてふわふわの何かが部屋中に浮かびはじめる感覚がした。
何も目には見えないのに、本当にふわふわして口の中がとろけるように甘い。
これっていわゆる溺愛ってやつでしょーーー! うぉーー!! と、エミリーの奥に潜む芽衣子が心の奥でずっと叫んでいた……。
親友であるシャルロッテ……ロッティの事も、ヘンリーから聞くことができた。
そして、ずっと気になっていた部屋を埋めんばかりのピオニー。
これはロッティからの贈り物であるいうことがわかった。
わたし……エミリーが高熱に倒れたという翌日。
医師から「面会謝絶」と聞いたロッティは、国中の花屋でピオニーを買い集めて送り届けてくれたらしい。
なんという金の使いっぷり! と驚いたけど、それより驚くのは、エミリーがロッティにピオニーが好きだと話したのは、昔のたわいもない会話の中だけだったこと。
そんな小さなことを覚えているくらい、ロッティはエミリーを思っている。
あの美しい姿を持つ彼女の気持ちに、胸がきゅっとなった。
そういえば会いに来てくれた日も、あの美しい瞳が少しだけ赤くなってたっけ。
ロッティの事を考えると、ヘンリーとは違う好きの感情で胸がいっぱいになる。
とても良い友情関係が築けているみたい……。
ただ一つ、わたしには気がかりなことがあった。
まだ確信はできていないけど、ここは『ふたりのシャルロッテ』の世界……。
『ふたりのシャルロッテ』はヒロインと悪役令嬢が同じ名前ということ。
もう一人のシャルロッテのことはまだ思い出せないけど、まさかロッティが悪役令嬢じゃないよね……。
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