進路篇

第1話 妖師への道

俺の夢は契約者の一種、「妖師アヤカシ」になること。

妖師は、妖怪と対等な立場で契約する異交だ。

その為に俺は、「異沓生イトウセイ」になる。異沓生は、異交の卵。要するに、俺みたいなまだ学生で、卒業したら、異交に関わる職に就く。


集合場所の異沓訓練校のエントランスで、俺は同じクラスの細田ホソダを待っていた。

「あと5分…」

すると、

「おう、神間カンマ。早いじゃねぇか。」

「お前が遅いんだ。後、5分で門閉められちまうだろうが。」

細田が来た。今時珍しい金のリーゼントに咬羅ウチの高校の白い学ランを着た風貌はまるでヤンキー漫画のラスボスだ。


「おう、琉子リュウシ君。来てくれたんだね。待っていたよ。」

「誰?アイツ。」

「さあ?」

鼻より上がオレンジ色の髪に覆われている奴に、偉そうな雰囲気のおっさんが話しかけた。

識名シキナ学長は?」

「嗚呼、照門テルカドさんと外に出たよ。暫くは戻ってこないだろう。」

このリュウシって奴、学長の知り合いか。何者だ…。

「おい、今、識名学長って…」

「嗚呼…」

細田も気付いているようだ。


周囲に目を見張っていると、時が来た。

外の門がゆっくり、閉じていく音が響き渡る。

「…」

さっき、リュウシに話しかけていた男が俺達の前に現れる。

「おはよう、異交の卵達よ。」

「「「おはようございます!」」」

「私は異交連合本部長の三枝尚道サエグサナオミチと申します。御存知のように、諸君は異交になるために、3月までの5ヶ月間、ここで様々な試練を突破して貰います。その間はここから出ることは出来ませんし、最終試練は命に関わります。」

「…」

「諸君には、その覚悟がありますか。」

見下すような目で三枝が言い放つ。

「今、辞退するなら、五体満足で無事帰宅出来ることを確実に保証します。」

周囲の反応を伺う。冷や汗をかいている奴もいるが、辞退する気はないのか、足を動かす気配は誰一人からも感じない。いや、それともビビって動かせないのか…

「良いんだな…では、君達を異沓生達として、迎え入れよう。改めて、宜しく頼むよ。」

「「「宜しくお願いします!」」」

何か声が裏返ってる奴もいた気がするが、気のせいということにしておこう。

「私の出番はここまでだ。ここから先は、今から配布する資料を基に行動してくれたまえ。それじゃ、未来を担う者達よ。」

そう言うと、三枝は静かに去っていった。


その後、三枝の言う通り資料が配られた。前半は何か精神論だか、何だかについて熱く語っているが、興味はあまり無いから、さっさと飛ばした。スケジュールのページを見る。

「げっ、6時起床かよ、俺いつも7時半だぞ?」

細田が起床時間を見て嘆く。

「しかも、22時消灯っておいおい。ふざけてんのかよ…」

今の所、細田はスケジュールがかなり気に食わないらしい。あまり気が長いとは言えない細田が耐えかねて、暴れないかが心配だ。

「細田、暴れんなよ?」

俺は細田に釘を刺しておいた。

「なァに、心配すんなって…」

細田は毎回こんなこと言って結局やる。

心配でしかない。


「えーと、102…102…あ、この部屋だ。」

俺達は泊まる部屋を見つけた。

「何で1人1部屋じゃねぇんだよ。」

一々五月蝿うるさい。細田より自分の堪忍袋の心配をした方が良いかもしれない。

「とりま、入るぞ。」

「おう。」

扉を開けると、2人の男がいた。名簿は部屋割りの所に書いてあった筈。

あった。浅桐アサギリ玲央レオ善養寺ゼンヨウジ爽真ソウマ

「えーと、浅桐君とぜ、善養寺君?どっちがどっち…?」

「浅桐が僕だよ。」

4つある内の左奥側のベットを占領している眼鏡が言った。

「てことは…」

俺は浅桐の向かいにいるツンツン頭に目を向けた。

善養寺は静かに頷いた。派手な見た目に対して、案外静かな奴なのかもしれない。

「えーと、どっちが…神間…正義セイギ君で、どっちが細田彪河ヒョウガ君だい?」

浅桐がく。

「俺が神間で、こっちが細田だ。」

「わかった、宜しく頼むよ。」

浅桐は俺達に笑顔をくれた。取り敢えず、細田みたいなのじゃなくて良かった。こんなのが何人もいたら、溜まったモンじゃない。

俺がチラッと細田の方を見ると、勘付いた細田が、

「ん、何だよ?」

「え…いや、何も。」

危ねぇ…

細田は善養寺の隣のベッドをテリトリーにするようだ。俺は余った浅桐の横のベッドに腰かける。

「えーと、神間君達は同じ高校なんだね。」

「ん、嗚呼ああ、そう。咬羅ゴウラ高校。」

「咬羅高校って、どこにあんの?」

「神奈川。」

「へー。僕、美童ビドウ高校。栃木県。」

「ふーん。」

「ぐがぁぁぁああッ!」

「っん?!」

突如響き渡る轟音のする方に目をやると、細田が爆睡してた。今日はまだ何もしないとわかっているからなんだろう。

「…ッ!!」

善養寺が急いで、荷物からイヤホンを取り出して、耳に押し込む。明らかに蔑すんだ目で細田を見る。

「がぁぁぁぁあッ!」

イヤホンを貫通してしまったのか、キレた善養寺は、寝ている細田の背中に蹴りを入れた。

細田の体は床に転がった。

「…」

やべー。こんなんされたら、細田、ガチギレだろ。

「…っぅゎあーー。あぅぁぅん…がッ、ガーーーッアッ!」

「おいおい、マジかよ…。」

細田は寝続けた。

善養寺はイヤホンを耳に入れたまま、スマホをいじっていた。

「細田君、大丈夫なの。アレ…?」

「まあ、寝てるっし、大丈夫っしょ…多分。」

そこから、細田は目を覚ますことなく、何を言ってるかわからない寝言をボヤき続けて、1時間が経った。

「暇だね。」

「そうだな。」

「別に部屋から出てもいいんだよね?」

「多分。確かいける。」

「どうせなら、行ってみない?」

「そだね。」

俺達がこの部屋を去ろうとしているのを察したのか、善養寺がイヤホンを片方外す。

「どこか行くのか?」

「嗚呼、暇だからね。ちょっと出てみようって。」

「そうか、じゃあ、俺も行く。良いか?」

「嗚呼。」

「細田君はいいの?」

「…」

細田から起きる気配は微塵も感じない。

「まあ、起こす方がキレられそうだから、そっとしとこ。」

「本当?」

「じゃ、行くか。」


俺達は細田を部屋に置き去りにして、外へ出た。

「そーいや、善養寺は何志望なの?契約者?役召者?」

「妖師。」

「ふーん、俺と同じだな。え、どこ高?」

生瀬ナマセ工業。」

「へー。」

やっぱ、わからない…。

「あれ、てことは浅桐も妖師志望?」

「そそ。」

「ほーん。」

申し込む時の希望欄に書いたのを基に部屋組みされたのか。


「ようやくだな。」

俺達は外に出た。

「比較的、星とか見えるんだね。」

「まあ、近くにデカいビルも輝くネオン街も無いからな。」

「…あ?」

俺達は先客がいることに気付いた。

「お、久し振りに女子見たわ。」

四人組の女子だった。

「「「「ん?」」」」

向こうも俺達の存在に気が付いたようだ。

女子がいると言えば、寝ぼけた細田も3秒で覚醒するだろう。

「俺達、妖師志望なんだけど…。そっちは?」

「錬術。」

「嗚呼、錬術ね。」

確かに錬術者は前線というよりも、サポーターとしての役割が強く、女子の割合が高い。

四人組は矢代妃雪ヤシロヒユキ上水流カミズルアズサ志熊シグマ明日香アスカ島原シマバラ穂稀ホマレと名乗った。


「OK、僕は、浅ぎ…」

「おい、神間…」

「ん…!?」

振り返ると、殺意200%の細田が立っていた。

「誰を差し置いて、女と喋ってんだ…ゴラァ…」

嗚呼、何で起きてるかなー…。

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