フィルム屋

一 山大

Film:柊 冬香

第1話 冬香

 なにもない、ただ暗い場所。

その中で立っているような気もするし、浮いているようにも、寝転がっているようにも思える。


 暗闇で、私は五才児に戻っている。

最初は怖かった。けれど、次第に慣れた。

 この夢の中で、私はいつも泣いている。訳も分からず泣いている。なにか、大切なものをなくした気がして、それでも「なにか」はわからなくて。

 何もない空間で、幼い泣き声が響き渡る。涙が足元を通り越して、際限なく落ちていく。

 私はただ、震えるしかなかった。


「おかぁさん……」


 誰が返事をしてくれるわけもない。

私は、ひとりだ。

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