ココロが知りたい心先輩
@nomo781
第1話 ラノベヒロインはなぜ出合い頭に服を脱ぐのか? —ハロー効果―
初めて望月 心(もちづき こころ)を見たとき、彼女は裸だった。
いや、正確には下着姿、確か白地にフリルがついていて肌は真っ白に透き通り、黒い髪をなびかせ……。と、こんな描写はいらないよな、うん。
ともかく、俺、平田 浩平(ひらた こうへい)にとっての彼女の第一印象は「痴女」だった。これはオーバーな比喩でもなんでもない。
「どうだ」
生徒会役員に内定し、初めて生徒会室に入った俺に裸体を見せびらかすように彼女はそう言い放ったのだった。
「な、何をしてるんですか会長!」
望月心は我が学園の生徒会長にして、心理学者を母に持ち、自らも自由研究で書いた心理学論文が科学雑誌に載るほどの才人なのである。その彼女が俺の前にその肢体をさらしている。俺は当惑し、慌てて目を覆った。
「私はどうも皆から怖がられているようでな……。ふふ、心理学などいくら知っていても人の心は分からないものだ」と、望月会長は心底困ったような顔で続ける。
「な、何を言ってるんですか?」
この状況が一番怖い、と思いながらも、俺は横目でちらちらと会長を見ながら聞き返す。ふざけている様子ではない。というか、この会長、いつもの生徒総会だともっとクールな印象だったんだが……。
「ハロー効果という効果を知っているだろうか」
ぽつりと望月会長はつぶやく。どうも話題があちこちと飛ぶ人だ。
「人は第一印象に強く左右されてしまうという心理効果だ」と会長。
「はあ、まあ、そういうことはよく言われますよね」
俺はさっぱり彼女の意図をつかめないまま、彼女の身体を見ないように返事をする。
「たとえば、優しくてたまに怖い人と、たまに怖くて優しい人ではどっちが怖い印象を受けるだろうか」ずいとこちらに近づく会長。ゆさりと揺れるふたつのふくらみが視界の端に入り思わず目をそらす。
「それだと、たまに怖くて優しい人の方がなんだか怖いですね」
内心それどころじゃないが、なんとか質問に答えると会長はやはりな、とうなずいた。
「つまり、私は第一印象で怖い人間だと思われているのじゃないかと思ってな」
うん、もう十分怖い。
「それで私は好かれる人間になりたいと思い、流行りの小説で勉強したのだよ」
嬉しそうに取り出してきたのは学園ファンタジーか何かのライトノベルだった。試しにぱらぱらとめくってみると数ページでヒロインが全裸になる描写があった。
「え、もしかしてこれ……」
聞くと会長は得意げにこう続けた。
「男の子はこういうのが好きなのだろう?」
ええと、どこから話していいものか。
俺はとりあえず服を着せると、持ってきた菓子折りを手渡した。
「優しい人だと思われたいなら、こういう手土産が喜ばれるんじゃないでしょうか」
「え?」と会長は驚くと、真剣な表情で俺の手をつかんだ。
「君のことを師匠と呼ばせてくれ」
どうやら大変に気に入られたようである。
これが、俺と望月会長の出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます