青色計画

夏場

プロローグ

人は、一生で平均65リットルの涙を流すらしい。ネットでそう書いてあっただけで真実はわからないけど。

私はそんなに泣くほうじゃないから、多分一生の涙はこれの半分くらいだと思う。

……最近ずっと暇。

一応、サブスクの映画は大体見たけど、大して心に残る作品はなかった。

今は解約しようか迷っている。月1200円は高すぎるし、新作映画の配信は遅すぎるし。

まぁでも、今日はまだ11日だから解約したら今月分がもったいないし、見てない映画があと何本かあるから、それを見て20日を超えた辺りで解約すればいいや、と思っては忘れる。それがいつものパターン。

その度に自分に嫌気がさす。

…でもこれも、もう感じないで済むようになる。

時計を見たら17時だった。母親がパートから帰ってくる時間だ。

母親に迷惑をかけている実感はある。けどこれだって、そろそろ大丈夫になる、なるはず。

黄ばんだピンクのcampusノートをベッド横の戸棚からとった。機能してない、散らかった勉強机に向かって、学習チェアに座った。

ノートを開いて1ページ目に移る文字は、自分が書いた字ながら、汚い字だと感じた。

いつからこんなに汚い字を書くようになったのか。

思い返せば、中学の時までは割と綺麗な字を書いていて、先生にもよく褒められていた。

やっぱり物事は、なんでもそれに勤しむ時間が少ないと、自ずと汚くなってくるものなのだと思う。

これは字だけじゃない、この部屋もそう。

隅に溜まるコーラやウーロン茶のペットボトル、カーペットに散らばってた本とか服。100均で買ってきたスパンコールやロープ、観葉植物や散らばったトランプとか、統一感は一切なく、汚い。

…友達がきたら、女の子の部屋とは思えない!なんて言われる気がする。言ってくる友達なんていないけど。

結局、家にこもるようになってから部屋は汚くなったのだ。掃除する労力が湧かないからまた最悪。

文字に目を戻す。

…またいつもみたいに動悸がする。最悪、悔しい。

「ふぅ」

いつもの深呼吸で、私を落ちつかせる。

私は、このノートに書かれてることを実行し終えた時どんな気持ちなのだろう。

いい気持ちか、すがすがしい気持ちか、はたまた悲しい気持ちか。わからないけど、できればいい気持ちで終わりたい。最後の最後まで悲しい気持ちで終わるなんて最悪だ。

凄くわくわくした気持ちと、やっぱり怖い気持ちと色々あるが、戦うってこういうことなのかもしれない。

ノートを閉じて目も閉じた。脳内が洗濯機みたいにぐるぐると回る。

最近見た映画のこととか、ゲームのこと。

…お母さんのこともある。勉強のことだって。学校のこともそうだ。クラスのこと部活のことあいつらのこと、そしてこのノートのこと。

ハッとした時にまた心臓の鼓動が速くなる。

深呼吸。

吸って吐いて、吸って吐く。

大丈夫、落ち着いた。

部屋を出てリビングに向かった。

カーテンを開けて、ドア越しから外を見る。

夏前の日は落ちるのが遅く、外はまだ全然明るかった。

これだから夏は嫌いなのだ。1日が遅い。冬は日がすぐ落ちて、すぐ夜になる。そしたら1日が速く終わる気がする。だから冬は好き。

向かいの道路脇から二人の女子中学生が和気あいあいと話しながら歩いている。

どうせ戻れないけど私が今過去に戻れたら、彼女らみたいに笑っていたのかもしれない。

カーテンを閉めてまた部屋に戻る。

ガチャっと玄関のドアを開ける音がした。

急いで部屋のドアを閉めた。

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