第23話 仲間の元へ

パチパチと音を立てて燃えるたき火を囲う様にして

マイキー、セレナ、ビッグマン、キャロライン、シラキが

地面に腰を下ろしている。


マイキーは、うんこのようなモンスターと中身が入れ替わったこと。

偽の勇者がセレナを橋から落とし、殺そうとしたこと。

そのせいでセレナが記憶喪失になってしまったということ。

セレナを助ける際、ビッグマンと出会い、彼の家族に世話になっていたこと。

一連の出来事を全てキャロライン達に話した。


その話を聞いた上で、キャロラインが口を開く。


「勇者様・・・、私、聞いたの・・・。

キッドが勇者様とモンスターの中身を入れ替えた犯人だって・・・。

本人がそう言ってた・・・」


キャロラインの言葉にマイキーが驚き、目を見開く。


「そんな・・・、一体、何のためにそんなことを・・・」


「キッドの本心はわからない・・・。だけど、

彼女は私達を襲ったモンスターに惚れてる。

キッドが奴に抱き付いているところをこの目で見たの…」


「・・・・・・」


信じられないという表情でマイキ―が頭を抱えた。


セレナ達が口を閉ざす中、キャロラインが話を進める。


「その後、二人の会話を盗み聞ぎしてたことがキッドにばれて、

私は、こんな姿に・・・変えられた・・・」


キャロラインが両手で顔を覆い、涙を流しながら言った。


シラキが肩を震わせる青年の背中をさすりながら

「僕はキャロラインの本当の姿を知らない・・・。

会ってまだ間もないけど、僕は彼女を助けたいんだ」

と言ってマイキーの方を見る。


マイキーはゆっくり視線を上げ、

シラキの顔をじっと見つめた。


白髪の青年の口元。

チラチラと白い牙のようなものが見え隠れしている。


それを見たビッグマンがシラキに訊ねる。


「その牙・・・、あんた人間じゃないな。一体、何者なんだ?」


シラキがぐっと口を閉じ、眉をひそめた。


只ならぬ雰囲気にセレナが口を開く。


「私たちは敵じゃありません。

シラキさん。どうか、本当の事を話してください」


少しの沈黙の後、シラキが目を伏せ

「僕は人間と吸血鬼の子供なんだ…」

と答えた。


シラキの言葉に辺りが静まり返る。


キャロラインが顔を上げ、シラキの隣に置かれていた

リュックに目を向けた。


馬の革で作られたリュックの中には亡くなった女性の服が

詰め込まれているということをマイキー達はまだ知らない。


血が染みついた服の匂いで衝動を抑えているというものの、

自我を忘れたシラキにいつ襲わせてもおかしくはない。


それでも、今はシラキのことを信じたい、

そうキャロラインは思うのだった。


静まり返る森の中、ビッグマンが重い腰を上げ、

シラキに詰め寄る。


「俺の妹は吸血鬼に殺された・・・。

シラキ、お前は吸血鬼の血が入っていたとしても人間だって、

そう信じていいんだよな?」


シラキが小さく頷き、大男の顔を見る。


ビッグマンは興奮しているのか、吐く息が荒い。


深く深呼吸をした後、シラキが口を開いた。


「僕にはちゃんと理性がある。

僕が理性を失ったその時は、躊躇なく殺してくれてかまわない」


ビッグマンがごくりと息を呑み、

その場で後ずさりをする。


男はそのまま、地面に置いていたランプを手に取り言った。


「あんたらの事はよくわかった・・・。

これから偽の勇者って奴の所に行くんだろ?

急がなくていいのか?」


セレナがスッと立ち上がり、

「こっちです。ついてきてください」

とビッグマンを横切り足を進めていく。


魔法を使っているのだろう、

セレナの周囲には、ぼんやりとした白い明かりが灯っていた。


その明かりを頼りに、

マイキー達はセレナの後に続いていく。


それからしばらく歩き続け、セレナがピタッと足を止める。


「セレナ、どうした?」


マイキーがセレナに尋ねた。


「あそこに人が・・・」


セレナが視線の先にある洞窟の方を指さし言った。


セレナの隣にいたキャロラインがその洞窟の方へ駆けだしていく。


月明りに照らされた洞窟の中に入り、キャロラインが言った。


「メルシー・・・、大丈夫?」


キャロラインの目の前、紫髪の女性が大事そうに

何かを抱きかかえている。


よく見るとそれはただの石のようで、

キャロラインはほっと胸を撫で下ろす。


近くの小川で拾ったであろうその石に向かって

メルシーが言った。


「私の可愛い、赤ちゃん・・・」




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