第3話 愛と憎しみ


深い森の中にある川辺。


勇者とセレナは湿った小石の上を歩きながら、

ゆっくりと足を進める。


時折吹く冷たい風が、

勇者とセレナの頬を撫でながら通り過ぎ、川に沿って流れていく。


川に反射した太陽の光がセレナの瞳の中に入ったのか、

セレナは眩しそうに目を細めた。


勇者は太陽の光をさえぎるようにセレナの前に立ち、

話を切り出す。


「セレナ・・・・。回復役が君だけとはいえ、

いつも頼ってばかりですまない・・・」


「いえ、私にできるのはそれだけだから・・・、

少しでも皆の役に立てるのであれば、体が疲れようとも平気です」


セレナは勇者に微笑みかける。


その額には汗が滲んでおり、本当は疲れているのだろう、

目の下にはうっすらとクマが出来ていた。


そんなセレナを見て、勇者は辛そうに眉をひそめる。


「この間の戦いで傷を負った時も、君がいたから助かった・・・。

俺も含め、4人分の傷を治すのは大変だっただろう?」


心配そうに話す勇者に対し、

セレナは首を横に振りながら答える。


「いいえ、勇者様。

こう見えて私は、最高の白魔術師と呼ばれたこともあるくらい

タフな魔術師なんです。だから、心配しない・・・っ」


立ちくらみをしたようにセレナがバランスを崩し、地面に膝をついた。


「っ・・・・・」

「セレナ!大丈夫か!?」


勇者はセレナに駆け寄り、華奢な体をグッと抱きかかえる。


「勇者様・・・・・・」


セレナは勇者の顔を見て、頬を赤らめた。


トクン、トクン、トクン、トクン・・・・・。


セレナの心臓の音が早くなっていく。


それを勇者に悟られないよう、セレナがぱっと目線を横に逸らす。


二人のやりとりを木の陰に隠れながら見ていたキャロラインが

セレナの方を見て、チッと舌打ちをした。


勇者とセレナはキャロラインがいる事に気が付いていないのだろう、

勇者はセレナの体を支えながらゆっくりと立ち上がった。


「セレナ・・・。もう一人、新しい白魔術師が見つかるまで、

あまり、無理はしないでくれ・・・」


「勇者様!私は・・・・、あなたの為なら何だって出来ます!」


セレナの言葉に勇者は驚きながらも、

彼女の目を真っ直ぐ見て答える。


「それじゃあ・・・。俺の為に一つ、願ってもいいか?」


セレナはこくりと頷いた。


「誰よりも幸せになってくれ。それが俺の願いだ・・・」

「勇者様、私はっ・・・」


セレナが勇者に想いを告げようとしたその時。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


メルシーの悲鳴が森の中に響き渡った。


「メルシー!?」


勇者は動揺を隠せない様子でセレナに声をかける。


「セレナ、君はここで待っていてくれ!俺が様子を見てくる」


緊迫した状況の中、セレナは大きく頷いた。













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