皆様、すき焼きは好きですか。
これはもう偏見ですが、嫌いなひとはあんまりいないと思います。
いわゆる洋食のはしりとして、牛鍋――関西では「すき焼き」と呼ばれていたという牛肉料理が食されるようになったのは、文明開化を迎えた明治のころ。それ以前にも牛肉をまったく食べなかった訳ではないようですが、いわゆる薬膳、滋養食の類であったそうで、現代に通ずる牛肉食のはしりとなったのはやはり明治の御一新以降のこととなります。
何を申したいかといいますと、お肉いっぱい食べると幸せですよね。
本作はそうした風情のお話です。
同じ肉でもステーキあたりの方がよりイメージしやすいところかもしれませんが、作中のヒロインが明治を題材に取り込んだVtuberなので、ここはそちらに倣って明治風で。
前置きここまで。さて、ここから本題。
冴えない陰キャを自認する主人公・神戸耕太郎の推しは、大人気VTuber『明治千代子』。
確立された時代考証と艶やかにして可憐な美声の彼女は、神戸がひそかに執筆・投稿サイトへ載せていた小説の大ファンであり、そも『明治千代子』というキャラそのものが彼が自身の小説に登場させたヒロインであり、しかい『明治千代子』を演じる中のひと――中身も器量よしの彼女は突如、神戸のもとへやってきて押しかけ同棲を始めてしまう。
自分が描き出したヒロインそのもののような女の子に、世話を焼かれ、甘やかされ、一方で彼女をより高みに押し上げるべく明治千代子の生みの親――『ママ』として粉骨砕身する中で、自らも脚光を浴び、自身の小説諸共に注目の的へと昇ってゆく神戸。
そう。
理想も夢も願望も、卓越した筆力でバシっと形にして遠慮も自重もなしにずずいと供される、『刺さる』人には紛れもなく垂涎ものの一作です。
つまりは、だから冒頭のフリなのです。
脂たっぷり載った旨い牛肉、皿にいっぱいてんこもりな感じなのです。肉はおいしいですよね皆さん。
だが、しかし。
嗚呼、しかし。
もちろん『理想』のヒロインそのままみたいな気風良しの美少女が、生まれながらに天然自然そのまま育ちあがったなどという、斯様な奇跡の御業など、そうそう都合よくあるものではないでしょう。
では、『明治千代子』を名乗る彼女は何者か。
彼女はいかにして明治千代子を知り、Vtuber『明治千代子』の絵姿を纏うに至ったか。
彼女を『そこ』へ至らしめた原動力は、その切っ掛けは、果たして一体何だったか。
――それらは本編、御覧じてのお楽しみ。
当世風の『ママみ』が欲しい諸兄。意外に骨太な話がご所望の諸姉。
お時間ご都合よろしければ、ひとまず斯様に大仰なレビューまがいなぞはそこいらへとうっちゃりまして。
まずは是非、本編へとお進みくださいませ。