13「推しの裸」

「ぅぇええぇぇえええええぇええええッ!?」


 浴室から千代子の叫び声!

 僕は慌てて廊下に出て、脱衣所の扉の前に立つ。


「千代子!? どうしたん!? 入ってええか!?」


「うん。いや、やっぱあかん! ちょぉ待ってや!」ごそごそと衣擦れの音が聞こえてから、「ええで」


 引き戸を開けると、果たしてタオル一丁の千代子が浴室に立っていた。

 白い肩と鎖骨と胸元に視線が行って、それを根性で引き剥がし、千代子の顔に向ける。

 生足の方は日中さんざん見せつけられて少しは慣れたんだけど、胸の谷間はさすがになぁ。


「ゆ、ゆ、湯が!」慌てた様子の千代子。


「湯が?」


「張ってへん!」


「……はぁ? そりゃ、お湯張りしてへんのやから当然やろ」


「えええっ!? この時間帯なったら勝手に張ってるもんやないの!?」


「タイマー機能か何かか? ウチのボロい給湯設備にそんなモンはないで」


「せやったら、何でウチが風呂行く前に止めてくれんかったん!?」


「あー、それはごめん。シャワーで済ますつもりなんかな、っておもて」


「あぁ……」


「5分もあればお湯張り終わるけど。どうする、ここで待つ?」


「うん」


「給湯システムの使い方は分かる?」


「教えて」


「ほら、壁のそこにリモコン付いとるやろ?」


「ウチ機械得意ちゃうねん……せやから実際にやって見せて欲しい」


「えぇ……あんなに上手にPC操ってたのに?」


「あれは、V活動で必要やから頑張って覚えた」


「まぁ、千代子おばあちゃんは機械音痴ってのは解釈一致やわ。入ってええか?」


「うん」


 うん、と言われたから浴室に入るが、まさか了承されるとは思っていなかったので、内心ドキドキだ。


「えー……まずは湯船に栓をする。そんで、壁に付いてるリモコンの『運転』ボタンを押すと」


『ピロリン』と起動音。


「したら画面がくから、上下ボタンで温度を好みの設定にして、『お湯張り』ボタンを押す。これだけ」


 じゃ~……と湯船に湯が流れ始める。


「オーケー?」


「オーケー」


「あれ? なんかスースーするなぁ……あ、換気扇ついたまんまやん!」


「換気扇はどこで止めるん?」


「脱衣所の方に――」


 言って、しゃがんでいた体勢から立ち上がりながら振り向くと、超至近距離に千代子の顔! のぞき込み過ぎやろ!?


「きゃっ」


 僕の肩が当たって、千代子の軽い体が背中から倒れ込む!

 僕はとっさに千代子の後頭部に腕を回し、体をひねって千代子をかばう。


「かはっ……ててて……」


 背中に激痛。

 けど、おかげで千代子が頭を打つような重大な事故はまぬがれた。

 顎を引いたおかげで、後頭部を打たずに済んだよ。あ、あはは……柔道の授業が役に立つとは。


「か、神戸かんべさん!?」


 何やら標準語っぽい千代子の声。

 これが彼女の素なのかな……? などと考えながら目を開くと、


「千代子!? 前、前! タオル!」






 ……フルオープンだった。

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