もはや戦後の魔導技術研究科

ダカツ

第1話 マジカの夜明け

「...とまあ、魔導地雷はこのように開発されてきたわけだが、現代では大幅な発展を遂げている。」


 そう言って、痩せ型顎髭の教官が示したのは、飴玉ほどの大きさの金属球だった。



 先に、この教官──アルガイル・ハインツについて紹介しておこう。

 鋭く尖った目に鉤鼻、ひょろっとした体格。無愛想で無表情で抑揚のない声。さらには最悪なことに、戦地で規律違反を犯した女兵卒を強請って手を出したような男だ。

 もちろん、その一件が露見した際に出世ルートからは外されたようだが、軍の上層部が過去の戦績を鑑みて更迭先を一般的な強制労働ではなく、僻地の軍学校の教官としたため、現在の職を得ている。


 時間軸を今に戻そう。


 その教官の目の前で講義を受けているのが、アリシア・ハプルブルク、16歳だ。

 この少女は、尋常ではなくこの教官のことを毛嫌いしていた。いや、性犯罪者なのだから妥当といえば妥当なのかもしれないが、流石に授業以外で口を利こうとしないのはやりすぎではないか───と周囲の友人はヒヤヒヤとしていた。


 けれども、彼女は以外にも大人しく授業だけは受けている。

 嫌いな男に教えを請うのは苦痛であったし、抑揚のない声で展開される授業もなかなかに眠たいものであったが、その知識と経験の量は他の教官を凌いで目をみはる物であったからだ。

 彼女がこの教官の授業を大人しく聞いていられたのも、この教官の知識や経験値に関しては認めざるを得なかったからである。


「ではアリシア君。 先の大戦で使用されたおもな設置型魔導兵器の名称と国による特徴を答えなさい」


 考え事をしているのが顔に出たのだろうか。アルガイルに名指しで当てられた。


「はい。我ら帝国が使用したもので第一が、MgK-256型魔導機雷、第二がMgK-128型魔導地雷です。更に、MgK-512K型魔導魚雷があります。MgK-256型は貫通力に重点をおいたもので、比較的大型なものの連合国の牽龍兵を一撃で仕留められる威力があります。MgK-128型はかなり小型で散布が可能、対歩兵戦に威力を発揮し、安全装置で100個単位から遠隔で動作を停止させることが可能です。MgK-512型は対戦艦用として開発されましたが、王国の参戦で推進装置が沿岸警備艇コルベットに転用されたため実践投入はなされませんでした。その他に、派生型のMgK-256aや旧世代のMgK-64などが実戦で運用されました。


 対して、連合国が使用したものは、我々のMgK-128型を模倣した6型地雷で、MgK-128型と同程度のサイズでより強力、付近の小隊をも吹き飛ばす出力がありますが、安全装置が搭載されておらず、人道的問題があります。

 また、陣地爆破用の8型機雷は対戦初頭に暴発事故を起こし牽龍兵団を丸々一つ喪失する自体を招いたため使用されず、欠点を克服できないまま休戦を迎えました。

 対艦用の魚雷、11型魚雷は小型化により我々の沿岸警備艇に甚大な損害を与えました。


 王国は万能型機雷と称して非・魔導機雷を推進していたため、魔導機雷開発競争に出遅れ、主に物理機雷を使用したため目立った成果は挙がりませんでした」


※牽龍兵団は地に攻城兵器などを引させる兵団。


「流石はアリシア君だ。よろしい。座りたまえ」


「はい。ありがとうございます」


「ところでだ、ここからは指導範囲外の話になるが少し聞いてくれ。寝てるやつは起こせ」


!?


 アルガイルは立礼の時以外はめったに寝ている生徒を起こさない、寝ている生徒が悪い成績を取ったって自業自得という方針だったため、少し教室がざわつく。

 アルガイル自身の本心はわからないが、『終戦早々平和ボケしてる奴など不要だ』そうだ。


「紹介する人物がいる。失礼のないように。....わかったな?」


「「はいっ」」 


 教室の一同に緊張が走る。アリシアを含む数名はワクワクしている様子であったが。


「では、お入りください」


...


...


...来ない。


「お入りくださいっ!」


「え?なに、もう入っていいの? 失礼します」


 やけに間の抜けた声で教室に入ってきたのは、士官服に身を包み、上から白衣を羽織った女だった。

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