襲撃

 二人の旅人がゐた...

一人は黒い髪の少年、

もう一人は銀の髪の女性。

少年ルアは、シュネーと旅をしている.......

.......のだが.....。


「こほっ...ごホッ.....。」

「本当に大丈夫か少年....」

「なんとも....ないはず...でほっ..えほっ.....。」

「少年は宿で待ってろ?薬買って来る」

「......すみません......げほ。」

ルアは病に堕ちた。

何の変哲もない風邪で間違いは無い。

肩乗りドラゴンのファネも心配そうに見る...

と思えば嘴で音を鳴らして飛び回る...。

ルアが疲れたような素振りを見せると、

直ぐファネはこうする。

励まそうとしているのか、

はたまた笑っているだけか...。

その辺りは分からない事が多い...

「ファネをここに残しておくからさ、何かあったら頼んでみれば?意外と賢いぞこの子」

「...けほ...。」

「咳で返事するなよなー....」

そして軽く笑って、

「ほらよ大切な私の上着置いとくから、寒かったら着な」

「はい....ありがとうございます....けふっ...。」

「じゃいってきまーす」

咳で返事しそうになったので

手を振るに収めた。


 特にやる事も無く...ルアは眠った、

牛乳に張った膜のように薄い眠りだ...

しばらくして、何かが不時着した。

まぁファネだろう...

「よいしょ.....。」

起き上がる...何も思い付かない。

病人は寝ているべきなのだろうが...

こうも何もしないと気持ち悪い、

杖片手に魔法書物を読んでみる事にした。

属性魔法...は宿の中だから辞めておこう...

そういえば格納魔法ってのがあったはずだ。

ページを捲るが...格納魔法については、

この魔法書には載っていないようだ。

「....うーん......。」

ガチャ...

「あ、おかえりなさ.....。」

『おいおいおいおい...ガキがいるぞ』

『知らねぇヨ、黙らせておけ』

『よく見りゃ可愛いガキじゃねぇかなァ...!』

その瞬間、頭の中を様々な事が巡り、

勢いに耐えれず少し気持ち悪さを感じた。

それだけルアはパニックになった...

力の無い自身はシュネーという

頼れる壁に護られ、

ここまで旅を続けられていたのだ。

某日の銃サバイバルでも、

龍を助けにトラックを盗んだ時も、

あそこまで積極的に動けたのは

実際のところそういう事なのだ...

そんな事に気付くが、滅入っている暇は無い。

生き延びる事を考える...

謎の覆面達...声からすれば若そうだ...

数は3人、だが真っ向から当たれば

負けるというのは馬鹿でも分かる。

拳銃はリュックの中...師匠が持っている。

銃剣付き狙撃ライフルは車の中...

こちら側に武器は無い。

相手は棍棒とナイフを一本ずつ...

さて...いや、待てよ?武器なら一個ある。

咄嗟に隠してしまった一本の魔法の杖...。

だが使用後の体力の減りが持たないだろう...

一撃で三人を葬る...葬る?それはダメだ...。

落ち着け...杖を持て.....

「!?」

しかし動かない。

その手が動くことは叶わず、

ただただ冷や汗垂らすのみだった。


『なぁガキ...カネはあるか?カネになりそうなもんでもいいぜ?俺ら殴りてぇ訳じゃないんだ...な?聞いたらさっさと動け』

ピクっ...と圧に動きそうになる。

何か言い返せ....

「あなたは...。」

『あんたの意見は聞いてない!動け』

「でも....。」

『でもじゃねぇ...言う事聞きゃいいんだよ...今、ここで、一番、立場、上なの、俺ら!分かります?』

「そんなの...。」

『五月蝿いなァ...多分ハエより面倒臭いぜお前....言う事やるだけでお命助けてやるってんの...もの分かり悪ぃなぁ....』

発言する暇も無い...

そもそも、身体が思考通りに動かない...

それならいっその事何もしないで行こう...

引き攣った表情とは裏腹に様々考えた。

しかしムカついてきた.....

飛び切りの痛みをぶつけてやりたいくらいだ。

だが....行動に移せる事など

少しもできぬ弱い人間だと......

既に自分では深々と知り刺さっている。

悔しさが思考を染め始めた時、

頬に激痛が走った。

軽い身体は易々とフロアに叩きつけられ、

高いようで鈍い波長の音が部屋に響く。

激痛は引いたと思えばチリチリと焼ける様な

痺れる様な痛みへとシフトしていく。

目の内側が染みるが...反射的に堪える。

キッ....

首元に突きつけられるのはナイフ...

さっきまで思考する事で、

どうにか繋ぎ止めていた理性は、

ショックで吹き飛び、

下手なだるま落としのように崩れ始めた。

『ちっ....お前ら...この部屋を探せ』

『了解了解...』『うーい...』

布で目元を隠され視界が消え失せる...。

手は後ろ手ではなく前で縛られた...

金庫でもあったら解かせるつもりだろう....。

ガサガサ....ガサ.....

『兄貴!なんもねぇんだけど!』

『こっちもですぜ』

『なわけねぇだろうが....こいつは旅人だ...金がねぇ訳ねぇ!おいガキ!話せ....リュックでもなんでもあるはずだ!』

「知りませんよ....。」

『知らねぇだと!?』

ばすん!

「うぐ....また殴った....。」

『もっと殴って欲しいのか!?いいぜ?やってやるよ!サービス精神って奴だな!』

ピィ....

空を切る音を聞き、縛られた腕で頭を守る。

ばぐっ!!

「ふぐ...あ.....。」

下手に力を流せなければ、

間違いなくルアの左前腕は

完全に折れていただろう。

それから立て続けに殴られた...。

ここに金は無いと伝えても、

然れど棍棒は振り下ろされた。

途中から意識がかすかすれに飛び、

ただ、痛みだけはそれでも感じ続けた。


 ひゅぅ....ひゅぅ....

がすっ....が!.....

ひゅぅ....ひゅぅ....

「ルアッ!」

ひゅぅ....ひゅぅ....

「ファネ、ありがとう...もうちょい早ければ…ごめん、ファネに言った訳じゃない....隙をついて来てくれたんだ....すまない....あぁ....。シルクを買ってきて良かった...少年?聞こえているなら...ゆっくり深くだ...」

ひゅぅぃ.........ひゅぅぃ..........

「よしいい子だ....失礼....」

上半身を脱がされる。

されるがまま...何も考えられない。

「あざ祭りだナこりゃ...」

ひゅぅぃ.........ひゅぅぃ...........

「そっち持ってくれ...ナイスだ...こうして....よっし.....針と糸...ナイスだ」

ひゅぅぃ.........ひゅぅぃ...........

「少年、なんで逃げなかったんだ....?」

「.........。」

「上着と....杖.....大切だろって?ったく.....ばかやろ.....あんたが壊れちゃさ....ダメだって......」

シュネーはルアを軽く抱いて頭を撫でる。

それからルアの膝下と背中に手を回し、

ゆっくりと抱えあげると、

派手に倒れ込んだ男の上を通って

慎重に"ゆっくり"車へと向かった。

荷台に乗せて目指すは病院。

シュネーは身に付けていた金の腕輪を外すと

現れた医者に差し出す。

医者は頷くと、治療を始めた。

暫くしてルアは戻って来た...

「調子どうだい?」

「.......まだ...痛みます.....。念の為、左手を包帯で固定する....そうです。ここだけ...かなり強く当たった....らしくて...。」

「そっか....今日はゆっくり寝て...明日ここを出ようか」

「はい...! いてて....。」

「てな訳で車は私が運転する」

「げぇ....ぬぬに...しょうがない。」

「そういえば風邪は?」

「確かに....殴られて治ったんでしょうか....。」

「ご冗談を〜...」

「そういえば師匠....僕の事ルアって?」

「わー!なーんのことだか!置いてくぞー!」

「うわぁ!!!!ちょ、ま、いてててて!!!!」

病院に来る時とは逆で賑やかに宿へ帰った。

次の日、男を自警団に引き渡すと、

彼は指名手配されていた強盗の一人らしく、

ルアが話せる事を話せるだけ伝えた。

引き渡し時に自警団から金貨を12枚を貰い、

シュネーの運転で国から出た。

日はまだ頂点には来ていない.....

ゆったりとおしとやかに、

クリーム色の車は地平線へ消えた。

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