優しい土砂降り:普通な国

 たっったったたたたたたた....

1台のクリーム色でイカした赤いライン...

可愛らしい丸いライト、

ボンネットにスペアタイヤひとつ...。

その小人のような、

四輪原動型古代異装の運転席に、

ただでさえ小さい運転席に

余裕を持って座るのは一人の少女...

「むっ。」「どしたー」「なんでも...。」

少年ルアは絶賛運転中だった...

後部座席...ならぬ後部テントで

坐禅を組んでいる女性はシュネー...。

その頭でくつろいでいるのは一匹のドラゴン。

名前はまだ無い...

ルア一行は国に向かって、

ゆったりと進んでいた。

「ししょー...城門ですよー。」

「ういー」

クアぁー...とドラゴンは欠伸あくびをすると

頭からひょいっと降りた。

「あー...少年が着いちゃうからー」

「師匠の集中力が足りなかったんじゃないんですかー。」

「うっ」

 そうして賑やかに到着した。

『旅人さんですね、ようこそ、我が国へ...ではこちらへ』

サインとか書いてから待合室へ...

「しょうねーん...このコーヒー甘いぞー"分かってる"奴だー」

「僕が入れて置いたんですよ。」

「分かってる奴だったー」

『どうぞー旅人さん、良い観光を!』

二人して会釈し、部屋を出る。

その後をパタパタと一匹が追いかける。


 街並みは良好...

明るい雰囲気の国だ。

路面鉄道がコトコト坂を登っていく。

「はええ...なんか未来的ですね。」

「ふーん...そかなー」

「ちゃんと見てます?」

「見てるよー」

取り敢えず宿に到着、今回は指定の宿だ...

サービスの内容は

マッサージとか、飲み放題とか...

うーん...хорошо!

疲れが取れた二人(特にルア)は揃って

ベッドに入り込む....

「ぬはっ!!」

だが思いついたらやって置きたい性分のルア、

マップを開き、鉛筆を取り出すと...

ツアーマップ...の、ようなものに仕立て、

半分寝ているシュネーに見せると、

「これでいいですね?」

「いーよー」

「おやすみです。」

「うーい、すみー」

二人は寝に落ちた。

残された肩乗りドラゴンは...

とうに寝ていた。


 朝起きれば...

ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

この土砂降りである。

「昨日の夜プラン立てたの凄い意味無かった...。」

「まぁ、そんな時もある」

「寝てれば良かったぁ...。」

「ザンネン」

びしょびしょの袋に入った、

新聞の天気予報には降り続く...と記載。

ますます残念だ。

「補給どうしましょう...。」

「買いに行こうか」

「そうですね。」

「いってらっしゃーい」

「あ、ずるい。」

「ふふふ....」


 雨の中傘を差して進んでいく...

「こんな時に格納魔法が出来れば....荷物濡らさないでいいのに....。」

クアぁー!

「ひゃぁ!?」

なんとあのドラゴンが付いてきていた。

雨垂れなぞお構い無しに飛んでいる...

てっきり宿で寝ていると思っていた。

「帰ったら部屋濡れちゃいそう...。」

苦笑混じりにそんな事を言うと、

くあ....

急にしょんぼりしたように

傘の下に入って来る....。

ちょっと申し訳ない

だが傘に潜ったその甲殻は濡れていない....

「あれ...。どうなってんだ?....なんて呼べばいいんだ?そういえば....、種類も分からないし....子供か大人かも分かんない....。」

悩むうちに店に着く


 がらがらがら...

横スライド式の軽くも重くもない戸を開ける。

「ごめんください...。」

『はいよ、』

「このメモに有る物有りますか?」

『どれ...ちょっと借りるね...どれどれ、うん、持ってくるよ、』

「ありがとうございます!」

店主は奥へ消える。

しっとりとした空気(比喩ではない)に

思わず溜息が出る。

『はいよ、これでいいかな?』

「あ、はい。」

『旅人さんだね...どうしたんだい?溜息なんかついてサ』

「うーん...分からない....ですね。」

『この地域さ、雪がたまーに降るんだよね。雪って微量でもなんだかワクワクする気がするんだけど、雨ってどんなに小雨でもなんというか...少し沈んじゃう、』

「それは少し分かりますね...。」

『兄ちゃんはどこの生まれなんだい?』

「違...ちが...地がこう....高いところです。」

反射的に"違う"と言いかけたのを

気付かれないよう無理矢理繋げて答える。

取り敢えず嬉しかった...。

『山、な感じかな...。じゃあ雪多いかな?』

「あ、いや...低めな感じな山です。」

『そうかいそうかい...おっと、』

強い雨が打ち付けていた外は

いつの間にやら柔らかい霧雨へと変わる。

『今がチャンスじゃないのかい?』

「おぅ...はい! では...また!! 多分!!!」

『さようなら、』

がらがらがら.....

横スライド式の重くも軽くも無い戸を開け、

ルアは店を出た。

クアぁー!

そして一匹、遅れて外へ飛び出した。

そうして、シュネーの待つ宿へ走り出した。
















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