【長編版】異世界で二郎系ラーメンを作ったら無敵!~敵も高飛車少女も僕を追放した勇者パーティーもこの味の中毒性には勝てず奴隷になりたがるからといって全員に「ざまぁ」するのはやりすぎですよポコタン~

加瀬詠希

【第1話】エロすぎて追放

「いくわよ覚悟! 氷結砲弾!」


氷属性の攻撃を得意とする女戦士エロイザは、敵に向かって砲弾を射出した。

エロイザは僕たち5人の勇者パーティーの中で紅一点にもかかわらず、エース格の実力をもつ。


今回の敵は魔王の手下の1人、ゲロフレア。

かなりの強敵だが、こいつを倒せば魔王の勢力に大きなダメージを負わせることができる。


エロイザは、炎属性の攻撃魔法の使い手であるゲロフレアとの相性はバッチリだった。

超低温の砲弾を食らったゲロフレアは、体が冷えきってしまい攻撃ができないようだ。


「うう……さ、寒い……。くく、くそっ……」


エロイザは、してやったりという表情で微笑んだ。


「よし、ジーロ! トドメよ!」


いきなり指名されて、僕はとまどってしまった。


「えっ、僕ですか!?」


「あんたしかいないでしょ! 私たち4人はもう、体力も魔力も、ほとんど使いきっちゃったのよ! ゲロフレアが回復する前に、早くやって!」


「あ……うん。わかりました。ポコタン、いけますか?」


何を隠そう、僕には腕力も魔力もない。

にもかかわらず勇者パーティーに加わることができたのは、このポコタンのおかげである。


ポコタンは非常に珍しい種類の小魔獣で、強力な攻撃魔法を使うことができる。

体長は40センチほど。

子ダヌキみたいな可愛らしい見た目をしているが、れっきとした小魔獣だ。


「ポコタン、がんばる!」


そう。

ポコタンはふつうの小魔獣と違って、人間の言葉を話せるのだ。


そのとき、ついにゲロフレアは勝負を投げたのか、ぐったりと動かなくなってしまった。

瞳をうるませ、かなしそうな表情でこっちを見ている。


「エロイザさん、ゲロフレアはもう動きません。なにも殺さなくてもいいんじゃないですか?」


「バカなこといってんじゃないわよ。こいつにやられた勇者はいっぱいいるのよ。このまま野放しにしたら、また犠牲者が出るのがわからないの?」


「それはそうなんですけど……」


「ク~ン」


ゲロフレアは、まるで子犬のような可愛らしい声で鳴いた。


「えっと……ポコタンはどうすればいい?」


「やりなさい!」


「ダメですよ!」


「やりなさい!」


「ダメ!」


いい争いをしていると、いつのまにかゲロフレアが立ち上がっていた。


「バッッッカめ! ぶふぉあーーーっ」


ゲロフレアがいきなり、すさまじい勢いで炎を吐いた。

僕たちが油断しているすきに、ちゃっかり体力を回復していたのだ。


「わーっ」


僕たちは必死に炎をかわしたが、エロイザの服のお尻あたりに引火してしまった。


「きゃーっ。水! 水!」


僕は急いで水筒をもってきて鎮火した。

なんとか、お尻が少し赤くなったぐらいで済んだが……。


「ポコーッ! ポコタンがなめて治してあげるポコ!」


「いやーっ、ダメ!」


「ぺろぺろ」


「ぎゃーっ! 本当になめた!」


バッチーン!


容赦のない平手打ちを食らったポコタンは吹っ飛んでしまった。


「この変態小魔獣め! ……ん? ゲロフレアは?」


「あれ? そういえば……いませんね」


いつのまにか逃げてしまったようだ。


   *


「あんたさあ、敵にトドメを刺せないんだったら、今すぐこの勇者パーティーから出ていってほしいんだけど」


女戦士のエロイザは、くびれた腰に両手を置き、仁王立ちしてそういった。


彼女だけじゃない。

他の3人の男性メンバーからも、さんざんないわれようだ。


「ジーロの性格は勇者に向いてないよ。取り柄は料理がうまいぐらいだな」

「腕力もないし、魔力もない。おまけに肝心の勇気もないときてる」

「今まで一緒にいてやったのは、ジーロの飼ってる小魔獣が強いからだぞ」


そうなのだ。

俺には腕力も魔力もないが、その代わりに、心強い相棒のポコタンがいる。


僕は、すり寄ってきたポコタンを抱っこして、頭をなででやった。


「そのポコタンが問題なのよ!」


再びエロイザが口を開いた。

だが、これには温和な僕も反論するしかない。


「なぜですか? ポコタンの魔力のおかげで、僕たちは何度も何度も、大ピンチを乗り越えてきたじゃないですか!」


「エロすぎるのよ!」


一瞬、その場が凍りついた。


勇者のくせに、異常に面積の小さなブラジャーとパンツしか身にまとっていない、やたらと肌色の部分が多いエロイザ。

おまえが、それをいうか! というツッコミが、全員の頭をよぎったのだ。


しかし、とりあえず今はエロイザのコスチュームの話を脇に置いておくことにしたのか、すぐに3人は同意した。


「確かに」

「確かに」

「確かに」


エロイザが続ける。


「そのエロ魔獣、あたしがシャワーを浴びてるとき、毎晩ノゾキにくるのよ! 昨日なんか、寝ているときにベッドに忍び込んできて、胸をなめたのよ!」


「なにっ」

「うらやま……」

「エロすぎる!」


僕は腕の中に抱いているポコタンにたずねた。


「ポコタン、それ本当ですか?」


「うう……ポコはちょっと、魔が差しただけポコ」


ケガをした野生のポコタンを保護したときは、もちろん人間の言葉はしゃべれなかった。

だが、人間と同等の知能をもつポコタンは、あっというまに言葉をマスターしてしまった。


「有罪!」

「ギルティー!」

「追放だ!」


「ポコタン、確かにそれはやりすぎだと思います。……仕方ありません。みなさん、さようなら。お世話になりました」


そんなわけで、僕はポコタンとともに勇者パーティーに背を向けたのだった。

ここから家まで歩くと、いったい何日かかるのかな。

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