第47話 おっさん、昇格試験に合格するが……
青の魔法陣に入り、光に包まれると……。
気がつくと、俺達は迷宮の洞窟付近にいた。
「……不思議ですね。 一体、どういう現象なのだろう」
「それは、研究者達の永遠のテーマだな」
「んなこと気にしても仕方ねえし。それより、ささっと行こうぜ」
「ああ、そうだな。他の冒険者が来る前に」
何でも朝早く来た理由として、他の冒険者達の邪魔にならないようにということらしい。
確かに1階の奥に行くのに、新人冒険者がいたら迷惑だろう。
すると、何やらよくない気配がするので振り向くと……例のあの男がいた。
「……あん? あの時の野郎に、クレアにダインかよ」
「ブ、ブライさん、お疲れ様です」
「ブライ殿……」
俺を庇うように、クレアさんが俺の前に出る。
「ちっ、わかってるよ。あのクソジジイに言われたしな。それにしても情けない男だな? 女の後ろに隠れるとか」
「これは私が勝手にやってることだ。それに、ソーマ殿は勇敢な男だ」
「別に貴方にどう思われようと構いませんが……別に女性が男性を守ってはいけない決まりなどないかと」
「……あぁん?」
「無論、それに甘えるつもりはありませんが」
クレアさんの肩に手を置き、今度は俺が前に出る。
個人的に、こういう考えの輩は好きじゃない。
「やんのか?」
「別にそんなつもりはないですが……」
「ちっ、腰抜けが……」
「も、もういいだろ!」
「……けっ」
俺をひと睨みした後、そいつは迷宮に入っていった。
それから少しの間、三人の間に静寂が漂う。
「お、おまっ! あいつを誰だと思ってんだよ! 狂犬と呼ばれるブライだぞ!」
「すみません、ご迷惑をおかけしました。個人的に、ああいうのは好きではないので」
「気持ちはわかるが、あいつには関わらない方がいい」
「……わかりました」
「うむ……さて、気を取り直して報告に向かうとしよう」
クレアさんの言葉に従い、俺達はギルドに向かうのだった。
ギルドに入ると、すぐにアリスさんに手招きをされる。
「さて、お二人とも……ソーマさんはどうでしたか?」
「文句なしの合格かと」
「まあ、良いんじゃねえっすかね」
「ふふ、それなら良かったです。ソーマさん、これにて試験は終了となります」
「えっと、こんなもので良いのですか? いえ、簡単だったという意味ではなくて、もっと内容を聞いたり……」
「ええ、このお二人は信頼に値する方なので。何より、この1ヶ月のソーマさんを見てますからねー。都市の人達からも評判が良いですし、指名依頼が来るくらいですから」
この一ヶ月はがむしゃらに頑張ってきたが……その頑張りが認められたということか。
異世界に慣れるため、ソラのため、そして俺を信頼してくれたクレア達のために。
これで、少しはこの世界で生きていく下地ができただろうか?
「ありがとうございます……」
「いえいえ、それはこちらのセリフですよー。引き続き、よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いいたします」
こうして、俺はD級冒険者になった。
依頼料や魔物討伐ランクも上がるので、家を借りることに一歩近づいただろう。
そろそろ、物件なんかも探しても良いかもしれない。
◇
迷宮に入った後、居酒屋で酒を飲んでいるが苛立ちがやまない。
その原因はわかっている。
あの、ソーマとかいう冒険者のせいだ。
「けっ、気に食わねえ」
なんか強そうな奴がいると思ってからんでみれば……ただの腰抜けだったか。
「兄貴、どうしたんで?」
「あん? なんだ、ザザか」
俺に引っ付いてくるコバンザメのような男だ。
だが情報通ではあるので、便利なやつではある。
「なんか、機嫌悪いっすね? 依頼先で何かあったんで?」
「ふんっ、そんなところだ」
魔物退治の依頼をこなしたのは良いが、苦情が来やがった。
周りにいた魔獣を巻き込んだり、それによって魔獣が森から出たとか。
それが農作物や村人に被害を出したとか……俺の知ったことか。
「なるほど」
「あとは気に入らない奴がいてよ。なんか、新人の癖にでかい顔をしてやがる。確か、ソーマとか言ったか?」
ギルドマスターにも気に入られてるし、良い女であるクレアにも気に入られてる。
穏やかな性格から、冒険者や都市にいる連中からも人気らしい。
……ますます気に食わねえ。
「ああ、噂のおっさんルーキーですかい。なにやら、評判良いっすね。しかも、獣人の娘もいるとか」
「……あん? 獣人の娘? 嫁さんが獣人なのか?」
「いや、それはわかんないっす。ただ奥さんは見当たらないですが、娘がいることは確かです」
「ほほう? ……その話を詳しく聞かせてもらおうか」
「へへっ、何か注文しても?」
「おう、好きなのを頼め」
獣人の娘か……こりゃ、良い話を聞けそうだ。
獣人になら、何をしても許されるからな。
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