第45話 おっさん、試験を受ける~その二~

 確か……刀を抜いたら斬るだったか?


 いや、当たり前の話ではあるが……居合斬りの達人であったおじさんからはそう教わった。


 漫画の世界のように、刀をキンキン!とぶつかり合うことはほとんどないという。


 刀とは一撃必殺で仕留めるものだと、おじさんは言っていた。


 一度抜いたら斬る……つまり、避けきれない速さで一撃で仕留めることだと俺は思った。


「ギャキャ!」


「ギー!」


「ギャー!」


 狭い通路をゴブリンが走ってくる。

 幸いにして、同時には来れないようだ。

 これは良い練習代になる。

 俺は柄の部分に手を添え、慌てることなく静かに待つ。

 相手の身長が低いので、少し姿勢を低くしながら……。


「お、おい!」


「ソーマ殿なら平気だ」


 そんな言葉を背にしつつ……相手が間合いに入ったので——刀を振り抜く。


「ギャ? ……ァァァァ」


 上半身と下半身が分かれたことにも気付かずに、ゴブリンが魔石と化す。


「ギャー!」


「シッ!」


「ギ………」


 右斜め上に振り抜いた刀の刃を返し、そのまま袈裟斬りで仕留める。


「ギャギャー!」


「セァ!」


 最後の一匹は手首を返して、振り下ろしていた刀を横一文字に振り抜く。

 そして、三匹のゴブリンが魔石となる。


「ふぅ、こんなものか」


「な、何もんだ、このおっさん……相手がゴブリンとはいえ、数秒で終わったぞ?」


「ふふ、ソーマ殿なら当然だろう」


「なんで、お前がドヤ顔してるんだよ?」


「う、うるさい! 私の師匠だから良いのだっ!」


「はぁ? どういうことだ? ただのEランクのおっさんじゃないのか?」


「いえいえ、ただのおっさんですよ。ただ少し、戦いの経験があるだけのね。では先達者さん、引き続きよろしくお願いします」


「お、おう」


「うむっ!」


 俺は再び真ん中に戻り、ダイン殿の後をついていくのだった。





 その後も、ゴブリンを倒していると……なにやらドアノブのついた扉を発見する。


 茶色の壁なので、青い扉が目立っている。


「ダイン殿、これはなんですか?」


「これはアイテム部屋で、この中も異次元空間になってるぜ。青い扉は罠も魔物もない安全なアイテム部屋、黄色い扉は魔物が待ち構えてる扉、赤い扉は罠と魔物が待ち構えている」


「なるほど……ありがとうございます。つまり、これは不用意に開けても良いということですね?」


「おう、試しに開けてみろよ」


「ええ、そうします……おや? 何やら袋が……ふむふむ」


 畳一畳ほどの狭い部屋には袋が落ちていて、中を開けると石貨が数枚入っていた。

 価値としては、相当低いものだろう。


「まあ、一階だしな」


「階層が深くなるにつれて、価値が高い物が出てくる仕様になっている。当然、魔物も強くなってくるが」


「なるほど……ここには魔獣は出ないのですか?」


「いや、魔獣も出てくるぜ。じゃないと、俺達が迷宮を攻略できないし。食材も持っていくが、限度はあるしな。魔法の鞄を持っていれば話は別だが、アレは地下20階以降じゃないと出てこないし」


「魔獣を倒しつつ、それを食べることで体力を回復すると……そうなると、編成が大事になってきますね」


 食べる時、人は一番無防備になる。

 迷宮を攻略するなら、優秀な見張り役役が欲しいところだ。


「うむ、その通りだ。だが、必ずしもそうではない。白の安全地帯という場所が存在するからな」


「白の安全地帯ですか?」


「まあ、それは追追でいいだろう。ひとまず、階段を探してみようか。ソーマ殿なら、もうこれくらいで良い」


「そうだな。んじゃ、あとはおっさんが先頭に立って探してくれ」


「わかりました」


 その、割とすぐに下に行く階段を発見する。

 多分、一時間くらいしか経ってない。


「おっ、勘もいいのか」


「うむ。一階とはいえ、その広さは結構あるからな。我々は地図を持っているから平気だが……何かわかったのか?」


「いえ、特には……ただ空気感というか、風が吹く感じがしたので。ところで、あれはなんですか?」


 階段脇には、何やら青と赤の魔法陣らしきモノがある。


「青が脱出の魔法陣、赤が奥に行くための魔法陣だぜ」


「脱出はともかく、奥に行くためですか?」


「毎回、いちいち一階から潜ってたら面倒だろ? 五階ごとに魔法陣があるが、そこまで行けば自動で登録がされる。例えば五階まで行った冒険者がいたとする。そしたら、次回からは一階の赤の魔法陣から五階に行けるってわけだ」


 つまりは、セーブポイントとワープポイントみたいなことか。


「なるほど、それは便利ですね。そして、危険だと思ったら青で引き返すと」


「うむ、そういうことだ。さて……では、青に乗って帰るとしよう」


「えっ? もう帰るのですか? 試験は……」


「いや、問題なく合格だろう。ゴブリンを倒すこと、先達者である我々のいうことを聞くこと、階段を見つけることが条件だ。言ってはなんだが、あとは自己責任というやつだ」


「ああ、そういうことですか。確かに何もかも教えて貰うのは甘えですね」


 いわば、自営業のようなものだし。

 多分、この仕組みは善意で作られたのだろう。


「おっさん、わかってんじゃん」


「だから、言ったであろう? さあ、人が来る前に帰るとしよう」


 そうして、俺達は青の魔法陣へと入るのだった。






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